スカルラッティ, ドメニコ 1685-1757 Scarlatti, Domenico
解説:丸山 瑶子 (2565文字)
更新日:2012年2月29日
解説:丸山 瑶子 (2565文字)
スカルラッティ 鍵盤のためのソナタ 作品概説
作曲年代と史料について
スカルラッティの555曲のソナタの自筆譜は失われており、現在の最も主要な一次史料はヴェネツィアとパルマ所在の相当数の筆写譜である。スペイン女王マリア・バルバラの所有物だったと考えられているヴェネツィア筆写譜全15冊には496曲が収められている。そのうち巻号が付された13冊は1752~57年に、残りの2冊は1742年、1749年に由来する。同じくスペイン伝来とされるパルマ筆写譜は463曲15巻から成り、ヴェネツィア筆写譜の第1~13巻までの全曲に加え、他の一次史料にない作品を含む点で重要視されている(カークパトリックの監修によりファクシミリ版が出版)。パルマ筆写譜集の大部分の筆跡は、ヴェネツィア筆写譜の第1~13巻と同じである。そのため、両筆写譜集が近い関係にある可能性は高い。なお筆写譜では多くの作品が調によって対を成すが、対としての組み合わせが作曲当初の意図かどうかは定かでない。
汎用されているカークパトリック番号の順序はヴェネツィア筆写譜の年代に基づく推定作曲年代順であり、各ソナタの厳密な成立年代は未だ不明である。但し少なくとも、スカルラッティの旺盛な作曲活動は、ポルトガル宮廷礼拝堂楽長に就任し、王女マリア・バルバラと王子フェルディナンドの鍵盤楽器のレッスンを始めてからとされる。そして膨大な作品群の誕生は、マリア・バルバラへの生涯の奉仕によるところが大きい。従来説によれば、1742年のヴェネツィア筆写譜収録の作品群は初期の作品で、その技術的な要求の低さは王女と皇太子の学習を想定したためである。また、1742年の筆写譜集には、通奏低音とソロ旋律声部から成るソロ・ソナタとして演奏可能な作品が含まれ、様式的には彼がヴェネツィアで学んだ可能性のある、ヴァイオリン奏法の影響が指摘されている。
楽譜について
自筆譜の欠如と主要史料間のテクストの異同のために、現在なお「真正な」テクストの再構築は難しい状況である。20世紀以降に出版された代表的なソナタ全集には、ロンゴ番号でも知られるアレッサンドロ・ロンゴ編集の全集版、カークパトリック番号を採用したケネス・ギルバート校訂版およびエミリア・ファディーニ校訂版がある。ロンゴ版は、校訂者自身の主観的な作品のグルーピングや史料に関する不備など批判が多い。ギルバート版はヴェネツィア筆写譜集を下地にしており、史料解釈等を記した示唆に富む序文が記されている。1978年より刊行されているファディーニ版は、史料間の詳細な比較に基づく点で評価されているが、2012年現在、未完である。このように、研究者の間でなお、史料をめぐる問題の解決が試みられている。
作曲法の特徴
スカルラッティの大部分のソナタは二部形式をとる。前半は属調、または短調作品なら関係長調に転調し、後半で主調に戻るという調構造の枠組みは一般的なものだが、目的調に至るまでの大胆な転調、和声的豊かさはしばしば注目される特異性である。
彼の作曲法は聴衆の期待を裏切る手法に富んでいる。上述の大胆な転調の他、突然の総休止、規則的なゼクエンツの拒否(例えば、反復の際に小節を増減するなどといった手段による)、解決音への対斜など、安易な予測は許されない場合が多い。これらが彼の音楽を非凡にする要素と言えよう。
上記に関して、演奏上注意したい点がある。主要筆写譜のうち、少なからぬ数のソナタにおいて、前半の終りと後半の頭にかけて弧線が引かれている。この弧線は前半の繰返しでは前半を閉じる数小節を省き、後半の冒頭へ進むようにとの指示である。スカルラッティはしばしば予測される忠実な楽節の繰返しではなく、繰返しにおいて先行楽節の終止を省略し、次の新しいセクションを導入する。こうして音楽には型にはまらない淀みない流れが保証される。そして前半部の末尾から後半部へ移行する時には、弧線によって指示された前半末尾の省略によって、流動的な移行が果たされているのである。ロンゴやカークパトリックの校訂版を含む、従来の多くの出版譜において、この弧線の意味は見落とされがちであった。それに対してギルバート校訂版は、この弧線を再現しているため、演奏時にはぜひ参照されたい。
技巧的な難度の高さも彼のソナタの特徴の一つである。「フライボワイヤント時代」と呼ばれる、Esserciziに続く時期の作品群(1749年の筆写譜収録の作品群)はその代表で、鍵盤ヴィルトゥオーゾとしての実力を示す性格が色濃い。不自然と言えるほど頻繁で持続的な両手の交差、広域にわたるアルペジオ、素早いポジション移動を要する跳躍の連続などのアクロバティックな鍵盤楽器語法は、長いこと研究者の注意を引いてきた。また技巧的な音形は単なる曲芸的な身振りではなく、形式や和声と合理的な関係を持つ場合も多いため、奏者には技術に加え分析能力も求められるだろう。
装飾について
スカルラッティの装飾法は17世紀後期のイタリアの装飾法の流れを汲んでいるという。ギルバートの指摘を参考に、装飾指示に関して注意すべき点をいくつか記す。
まず、主要史料のコピストが併用している「tr」と「∼」は同義と考えられる。リアリゼーションは前後関係から判断すべきだが、短いトリルの場合、上補助音が記譜されてなければ基本的に主要音から始めるものと解釈できる。またトリルは、特に上行旋律線の装飾として使われる時、下補助音からのモルデントを示す場合も多い(K. 17、第11小節など)。
「Tremulo」、「Trem」、「Tre」の意味解釈は難しいところだが、K. 175で「tr.(ないし~)」と「Trem(ulo)」が規則的に交替することから、「Trem(ulo)」と「Tr.」は意味が異なるとみて間違いない。またギルバートは、=下補助音付きのモルデントという解釈の可能性を示している。彼は特に、上行音階または、孤立的な音に付される場合は明らかに、モルデントとして捉えるのが妥当という見解である。
装飾指示のリアリゼーションは、研究者の間でも意見の一致が難しい問題であるが、演奏の際には作曲背景を考慮しながら、適切な奏法を選ぶよう心掛けたい。
作品(558)
ピアノ独奏曲 (3)
ソナタ (556)
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