スカルラッティ, ドメニコ : ソナタ ニ長調
Scarlatti, Domenico : Sonata D-Dur K490 L206 4/4 カンタービレ
作曲時期:1756年ごろ
① スペイン王妃マリア・バルバラが演奏するためのソナタの中の一曲である。スカルラッティ自身によるソナタの自筆譜は完全に消失してしまっているが、これらのソナタは王妃が使用した写本(通称:ヴェネツィア写本)として全15巻現存し、K490は12巻(1756年に成立)に収録されている。このソナタはスカルラッティのソナタの中では後期の作品に当たる。
スカルラッティのソナタの大半は2曲を1組として作曲・演奏したものであると考えられるが、3曲が1組の場合もあり、K490はK491・K492と合わせて1組であることが考えられている。
② 16分音符と32分音符の音階の素早い音型と、付点リズムによるなだらかな音型の対比が曲全体を印象付けている。また、同じパッセージがすぐに繰り返されることも特徴的である。曲の構成は、[1〜16小節]、[17〜48小節]、[49〜61小節]、[62〜93小節]に分けることができ、[62〜93小節]は[17〜48小節]を再提示しており、[17〜48小節]ではこの曲の属調イ長調であったが、[62〜93小節]では主調ニ長調になっている。
曲全体でバス音がカデンツを明確に示しているため、まとまりを意識した演奏が行いやすい。また、13小節目から16小節目までのバス音の半音進行、及び伴奏部分の和声に対し旋律が非和声音であることから、この曲の冒頭部分のまとめにふさわしい緊張感がもたらされていると考えられる。
49小節目から61小節目までは、転調的性格を含んでおり、叙情的な印象を与える。右手は50小節目から58小節目まで同じ音型を繰り返すだけだが、左手の和音の響きによって感情が揺れ動いているように聞き手に思わすのは、スカルラッティの音楽表現性の高さを感じさせる。