ソナタ K1. - K.30について
スカルラッティの鍵盤のためのソナタのうち、概ね推定される作曲年代に基づいて番号付けされたカークパトリック番号でK. 1から30まではEssercizi per Gravicembaloとして出版され、騎士階級を下賜された返礼として、ポルトガル王ジョアン5世に献呈された。(なおこの曲集は一般的に《チェンバロのための練習曲集》と訳され、またスカルラッティの鍵盤楽器のための作品は主にチェンバロ用と推定されているが、研究の現状では、チェンバロ以外の鍵盤楽器が完全に想定外であるかははっきりしていない。)これは生前に唯一、作曲家自身が出版した曲集で、その序文は作曲家自身による真正な文書資料としての価値を持つ。
序文では、曲集が演奏技法の修練を目的としていることが示唆され、彼が音楽教師として仕えたマリア・バルバラの日々の練習用という実用的な目的で書かれたと推測できる。作曲年代に関しては、Esserciziはかなり前に書かれたソナタを推敲したものとして、多くの研究者が早期の作曲年代を主張しているが、結論は未だに出ていない。
全30曲の配列は発展的学習を可能とするもので、後の作品になるほど長く、難しくなるよう並べられている。形式は2部形式を基本とする。また作品の冒頭が両手の短い模倣となるのはスカルラッティのソナタに典型的で、多くの場合、模倣となるのは作品の残りの部分の主要素材と見たところは関連が薄いと思われる音形である。
なお序文には曲集全体の音楽的内容に触れた言葉もあるが、その解釈については、序文が謙遜や建前の入りやすい文章であることも手伝って、繰り返し議論されている。
K. 28 Presto
第10小節以降の特徴的な3連符の分散和音は軽快で耳に小気味よいが、直後の両手の交差、特に後半部におけるより近接した両手の交差まで淀みなく演奏するのはけしてたやすいこととは言い難い。なお平行3度と前半以上に密集した3声体(第64小節~)や強拍の和音(第96小節~)など、音響は後半部において前半より更に多様化する。