スカルラッティ, ドメニコ :ソナタ ヘ短調 K.481 L.187

Scarlatti, Domenico:Sonata f-moll K.481 L.187

作品概要

楽曲ID:2129
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:6分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

演奏のヒント : 池川 礼子 (2407文字)

更新日:2018年3月12日
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■作品について

f mollの暗く重たくドラマ性がある曲です。

バロックの音楽は、即興的な要素が多く、小さな音型の繰り返しや、変奏が巧みに自然に現れてきます。音程やリズムの工夫で、当時強弱があまり表現出来なかった楽器でも、ドラマが感じられるように作られていると思います。約300年も前の当時のムードを想像し、そのドラマ性を読み解き、センス良く今のピアノで表現したいものです。

■作曲家について

同じ年生まれ(1685年)の、バッハヘンデル、スカルラッティーはバロック音楽を代表する作曲家です。三人それぞれ当たり前ですが、まったく違った作風です。

イタリアのナポリで生まれたスカルラッティーは、鍵盤楽器の作曲家として有名で、その中でも、多くがチェンバロで演奏するものと思われます。

1701年、ナポリの教会付き作曲家兼オルガン奏者となり、ヘンデルとチェンバロとオルガンの腕前を競い合ったという逸話があります。

1720年ころリスボンに行きマリア・マグダレーナ・バルバ王女に音楽を教え、1729年に、バルバラがスペイン王家に嫁いだため、マドリードに行き、1757年マドリードで亡くなります。王女のために書いた555曲の練習曲が後にソナタと呼ばれ親しまれています。

■曲の構成について

A(1~8) f moll  B(9~20) As dur → c moll  C(21~35)c moll  D(36~44)f moll → g moll  A’(45~51)g moll  A(52~54) f moll  C(55~66) f moll A

まず4度上行し順次進行で下がり、2小節目の頭で属和音の根音を省略したことによって出来る不気味な減三和音を中心にすえたもの悲しい2小節テーマ。左手にも対旋律的なメロディーがあり、後半右手に6度下で美しく寄り添う。このテーマは2度繰り返される。悲しみをかみ締めているようだ。エコーにしても美しいと思う。繰り返しの最後に次への変化=装飾音を持つ次の強拍が移った4拍目は、ちょっと驚きを持って大切にし、そのメロディーは、同音連打を伴い悲しみを含み下がっていく。決して同音連打は飛び跳ねないように。

次にシンコペーションでより表情を持ち、次の小節で、4度5度の膨らみを持ちながら、全体としては、4小節間で、徐々に下がっていく。左手も6,7小節で、対旋律をオクターブ下で繰り返している。8小節目は、属和音で半終止し次に何か起こることをフェルマータで予感させる。1拍目は倚音、魅力的に感じたい。

B  次は急にさわやかに明るく平行調のAs dur.に転調。ベースの音が抜けていることで、より、3連符が軽やかに感じ、次の2分音符のシンコペーションで6度上がることが明るい響きを強調している。伸びやかに弾きたい。次に片刺繍音で半音が使われシャレている。

この2小節は2度上でゼクエンツされている。13,14と15,16も3度下でほぼゼクエンツされて、シンコペーションを伴い下降上行、リズムや装飾音を生かし軽やかに演奏したい。ただ繰り返された15からはc moll なので、トーンは変わり、続く17からは、1拍目のバスもありがっちりと訴えるように響かし、メロディーは、5小節目の同音連打のモチーフを用い下降し、17ではシンコペーションが長く、左手と交互に音が出て、半進行し、次の19で減7度下がり緊張感高まるメロディーがあり、次の前半のクライマックスであるCの部分に突入する。20、右手の3,4拍の和音は減七の和音で、不気味さを表し21の左手にそのまま反行して使われている。

C  この左の3オクターブの減七の和音の下降は強烈な印象だ。右手は減七の中の音を使って大胆なシンコペーションで、22の最後の拍で吸い込まれるように収まり、3連符の穏やかな音階が心を落ちつけるが、24恐怖の再来。26は23と2拍目の右手が違い表情を膨らませて欲しい。ここは3小節フレーズ。このインパクトの強いメロディーを2回重ねて、メッセージ性が強いが、続く3小節フレーズは、それを落ち着かせようとしているのか、同音連打が印象的で、涙を表現しているかのようだ。この3小節のメロディー2回は、魅力的にいろいろと変奏しているのは聴きどころであろう。前半締めくくりは、変奏された29のメロディーを2回繰り返し、倚音を魅力的に入れ、c mollで完全終止する。

D  Bの冒頭のメロディーを使い2小節間、2声が、歌い合う。始め、上声部が明るく歌うと下声部が不吉に引き戻す。左手は増4度=3全音=悪魔の音程。2回繰り返されると短7度の叫びの響きが、バスに減5度=3全音=悪魔の音程を伴い強烈に出現。41から。2小節間はgmollの属音Dをバスに保持しながら、右手左手交互に音階を下降。43にもう一度減7度の叫びがあり属和音で半終止する。

A’  gmollで最初の悲しそうなテーマが再現される。2回目のテーマの後半48からはf mollに戻り、41と良く似た下降形を変化させ、51で8と同じ半終止。ただし、フェルマータはない。そのまま主調のテーマ再現。これも3小節過ぎたところで突然オクターブの2分音符から前半の締めくくりのCが登場する。58小節この今日この最高音Desが現れ、なんと減7度シンコペーションで上下しクライマックスを迎える。この3小節はオクターブ、シンコペーション、同音連打などを含む感動的な2小節プラス、なだめるような音階の3連符。2回変奏を伴い繰り返し、29最高音、Des再出現。続く61では内声に動きが移り、途中ソプラノに戻るなど高さの違いも面白い。左手は、同音連打が深い悲しみを表すように右手の同音連打と響きあったり、支えになったりしている。最後3小節は、前半より音程をつけより激しく、右手の最低音まで下がり、壮絶なドラマを閉じる。

執筆者: 池川 礼子
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