スカルラッティ, ドメニコ : ソナタ ホ長調
Scarlatti, Domenico : Sonata E-Dur K.381 L.225 3/8 アレグロ
作曲時期:1754年ごろ
① スペイン王妃マリア・バルバラが演奏するためのソナタの中の一曲である。スカルラッティ自身によるソナタの自筆譜は完全に消失してしまっているが、これらのソナタは王妃が使用した写本(通称:ヴェネツィア写本)として全15巻現存し、K.381は8巻(1754年に成立)に収録されている。このソナタはスカルラッティのソナタの中では後期の作品に当たる。
スカルラッティのソナタの大半は2曲を1組として作曲・演奏したものである。K.381はK.380(L.23)と1組であることが考えられている。
② この曲の初めから、即興的かつ技巧的なホ長調の分散和音と音階によって、華々しい印象が与えられている。さらに、1小節目の左手の最初の音から2小節目の最初の音は4オクターブもあり、この作品が幅広い音域を持つことを最初から示していて、非常に高い演奏効果を与えている。右手と左手で交互に演奏される音価が細かで早いパッセージは独奏に適しており、演奏者の高い技術を魅力的に聴衆にみせるだろう。このように聴衆に技術で魅せる作品はヴィルトゥオーゾ性の高い作品だと一般的に言われている。
また、八分音符のシンプルな対旋律の中のオクターブ跳躍は楽曲の中で繰り返し演奏されるが、無味乾燥に弾くのではなく、カデンツ的な膨らみを意識して弾く方が良いと思われる。 66小節目から106小節目までについて、全体的に長いフレーズによって構成されている。個別には、右手は感情的な旋律を受け持っている。そして、左手は分散和音で、基本となるバス音がほぼ順次進行しているので、一歩一歩進む雰囲気が考えられる。
66小節目から69小節目までに見られる3度下行きの音型は一般的に「かっこうの音型」として考えられる。この音型は西洋音楽ではよく親しまれたもので、他の作品(例:フレスコバルディ〈かっこうによるカプリッチョ〉、ダカン〈クラヴサン曲集 第1巻 第3組曲「かっこう」〉、ベートーヴェン〈ピアノソナタ 第25番 ト長調Op.79〉)にも見られる特徴的な音型である。