1739年にロンドンのクック社から、スカルラッティの初期の鍵盤ソナタが2巻本のソナタ集《42のクラヴサン曲集XLII Suites de Pieces Pour le CLAVECIN》として出版された。これは作曲家の友人であるトマス・ロージングレイブによる海賊版であり、スカルラッティの作品はこの版を初めとして、18世紀におけるオーセンティシティの低い楽譜が出版され続けるようになる。ロージングレイブは、予約者の希望に即したという理由で、曲集の冒頭に自身による導入曲Introdutionを、曲集の途中にアレッサンドロ・スカルラッティのフーガを挿入した。表紙には、出版社自らが既刊行譜の誤りを直したと銘打ってある。この曲集は、Esserciziの30曲とK. 8の異稿、K. 31-42が収録されており、今日K. 31-42にとって最も重要な一次資料となっている。
K. 32 ARIA 3/8 d-moll
||:a:||:ba:|| の3部分リート形式。右手の甘美な旋律は、殆どの部分が冒頭1小節目と2小節目の動機で構成されている。素材は限定的だが、音域の移動や低音の変化が3部分それぞれの音楽を対照付ける。例えば、aでは2小節単位の動機同士が大きな跳躍なく繋がれるのに対し、a’では、2小節単位の動機が冒頭とは対照的に9度の跳躍を介し、音域の急な移動が響きを対照付けている。bでは左手のリズムや、13小節からの1小節単位の動機のオクターヴ移動が音楽をaよりも前進的にしている。