10.森の伝説 たった1ページの曲ですが、1分半弱位はかけて演奏したいゆっくりで自由な曲です。この曲を演奏するにあたって大切な事は、音楽が縦割りにならないように注意し、聴いている人に拍を感じさせず、さながら弦楽四重奏のように横に流れていかなければならない事です。そのためには、奏者はルバートを十分用いて、テンポが常に固定されないように注意してください。表示記号にもありますが、Slowly, with much freedomは、「とても自由にゆっくりと」という意味です。 加えて、和音の一番上の音を出す事も重要課題です。メロディラインは常に一番上にあると考えて間違いありません。 また、各フレーズ毎に微妙な和声の変化があります。それらの変化はムードの変化につながりますので、各フレーズ同じように弾かないよう注意します。例えば、1-4小節目はまで1つのフレーズです。5-8小節目は次のフレーズで、一見同じように見えますが、7-8小節目は、左手が半音階で下行しています。また、右手のメロディも異なります。これがタイトルのように、「伝説」を語っているのであれば、1つ目のフレーズ(1-4小節)よりも2つ目のフレーズ(5-8小節)のほうが、より繊細に、少しだけ感情面を見せているように感じます。 この曲を2つに分けるとするのであれば、1-16小節目までと17-最後までに分ける事ができますね。その時前半の1-16小節間で、ピークに達する部分は11-12小節です。9小節目からは緊張感を保って12小節目に達してください。後は、徐々に気持ちが穏やかになるように演奏します。 23-24小節目は、内声に、いままで出てこなかった主題が右手に登場します。各音符にテヌートが付いています。特に遅くという事ではありませんが、これら7つの音を十分に歌うように演奏し、ピークポイントである25小節目に導かれてください。前半のピークよりも、後半のピークポイントは(25-26小節)より一層感情的になる部分です。表示記号のbroadlyとは、「大きく少しゆっくり」と解釈してください。 しかしながら、曲全体がそこまでフォルテを要求される性格の曲ではありませんので、極端なフォルテが出ないように、しかし平坦にならないように、注意します。
12.教会の鐘 鐘にはペダルがありません。例えばラフマニノフの「鐘」を演奏するにしても、鐘にはペダルが無く、ペダルチェンジができない楽器であることを前提にすると、濁って当たり前と考える人もいます。この曲のペダル記号もどちらかというとそちらの傾向にあります。1-2小節間、5-8小節間、などを見るとペダルを踏みっぱなしにする指示があることがわかります。一つの鐘では無く、多くの鐘が一斉に鳴ることを考えると、確かに濁りなどはどうでもよくなるのかも知れません。ペダリングは奏者の主観的な考え方によって変わってきます。絶対にこれが正しいということはありません。奏者の主観に委ねられて然るべきだと思います。 しかしながらBセクション(17-32小節間)は、2小節単位で和音が変わります。2小節単位の最初の和音は最も低い位置にあることがわかります。これはバスの役割をも果たしている音と考えますので、低い位置にある和音は少なくとも、2小節間はペダルで伸ばして下さい。ここのペダルを1小節単位などで変えないようにします。 さてメロディラインですが、本来であれば、メロディラインを明確にして、スムーズにするところなのですが、これは「鐘」です。むしろ、打楽器的に、フレージングなど考えずにアクセントをつけて鐘の効果を出したほうが良いと思います。 Bセクションはそれでも少しpから始まり、29小節目をゴールと定めて、徐々にcrescendoをかけていきます。しかしここで注意することが一つあります。18-19小節間はa-mollのV7(EGisHD)、20-21小節間はa-mollの I (ACE) です。つまりは、V7が I に解決されますので、20-21小節は、18-19小節よりも弱くなります。同じく21-22小節はC-durのV7(GHDF)23-24小節は I (CEG)に解決されます(ここのセクション、厳密にはハーモニックシークエンスになります)。つまり、2小節単位でV-Iが来ますので、後ろ2小節は前2小節よりも小さく弾いてください。 この曲には特別なルバートをかけません。holding back(ゆっくり)や、in time(もとのテンポに)以外、指示が書かれていないところは全てテンポを保ってください。鐘の音がルバートをかけないのと同じことです。