4.悲しいワルツ
この曲で考えなければならないことはテンポです。テンポ表示は Lent としてあり、その横に(slowly)と英語で書かれています。ゆっくりという意味です。しかしこの曲をどのくらいゆっくりにするのかは非常に微妙なところで、あまりゆっくりすぎたり、テンポを動かさないと、とても退屈で間が持ちません。ですからある程度の速度で進まなければならないのですが、そのような状況下で「ゆっくり、ゆったり」聴かせるには、かなり大げさなルバートが必要になります。
このワルツの興味深いところは、「ワルツ」と言っておきながら伴奏部分が、典型的なワルツの伴奏、つまり1拍目がベース、2-3拍目が伴奏というパターンが一つも見当たりません。必ずどこかの拍に休符があったり、1拍目がメロディラインであったりして3拍全部伴奏で埋まることが無いのです。要するにそれだけゆったりと時間を取ってくださいという意味と考えて良いでしょう。また別の言葉で言えば、コンスタントに前へ前へ進まないように、という意味でもあります。
1小節目から8小節目までを見てみましょう。1-6小節間、左手は2拍目までしかありません。3拍目の休符は左手を少し上に上げ、呼吸をゆっくりととります。7-8小節目はゆっくりとフェルマータにたどり着きます。
9小節目、フォルテ記号があります。かなりゆっくり、大げさに時間を取ります。それから徐々にin tempoにして、15小節目で再びritをかけ、ゆっくり16小節目にたどり着きます。
Bセクションは16小節目の3拍目から始まり、左手にメロディーラインがきます。注意することは途中に出てくる8分音符3つをひとまとめにして弾くこと。一つ一つ力を入れてはいけません。24小節目にスラッシュがありますね。ここは少し時間を取ってから次に進んでくださいと言う指示です。24小節目3拍目からは先ほどと同じメロディラインが来ますが、29-31小節間が異なった音になりますね。実は、29-30小節間は1つの和音で分析され、Fr65(フレンチシックスファイブ)という特殊な、増6度の和音です(Des F G H)。この和音は31小節目、f-mollのV(CEG)の和音で解決されます。故に31小節目は30小節目よりも大きくならないようにしてください。Fr65はとてもドラマティックな和音ですので、強調して良いと思います。