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ショパン :スケルツォ 第4番 Op.54 ホ長調

Chopin, Frederic:Scherzo no.4 E-Dur Op.54

作品概要

作曲年:1842年 
出版年:1843年 
初出版社:Breitkopf und Härtel
献呈先:Janne de Caraman
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:スケルツォ
総演奏時間:11分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:展開1 展開2 展開3

楽譜情報:4件

解説 (3)

執筆者 : 大嶋 かず路 (2984文字)

更新日:2022年3月3日
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フレデリック・ショパン(1810-1849)はスケルツォと題する単独の作品を生涯において4曲書き残した。《スケルツォ 第1番》ロ短調作品20《スケルツォ 第2番》変ロ短調作品31《スケルツォ 第3番》嬰ハ短調作品39《スケルツォ 第4番》ホ長調作品54である。

スケルツォ(Scherzo:諧謔曲)は冗談、ユーモアなどを意味するイタリア語を語源とする。音楽史においては、1780年代以降、交響曲や室内楽曲など、多楽章形式の楽曲の中間楽章に用いられるようになった。

スケルツォの音楽的な特徴は4分の3拍子や軽快なテンポなど、従来中間楽章に頻繁に挿入されたメヌエットの特徴を踏襲することが挙げられる。多くの場合A-B-Aの3部形式もしくは複合3部形式で書かれ、中間部のトリオには前後の楽想と対照的な旋律が用いられる。こうした伝統に倣って、ショパンもまた《ピアノ・ソナタ 第2番》作品35《ピアノ・ソナタ 第3番》作品58《ピアノ三重奏曲》作品8などにスケルツォを挿入した。

これらに加えて、ショパンはスケルツォを単独の作品として完成させることを試み、ピアノ音楽の歴史に新たな境地を切り開いた。言うなれば、スケルツォはショパンによって一個のピアノ作品として構想され、芸術作品として完成した音楽ジャンルの一つであるといっていい。

4つのスケルツォは、速いテンポと4分の3拍子、3部形式などを基本構造としているが、形式はより複雑であり、ソナタ形式に近いものもある。感情的、情緒的な表現や、高度な技巧を要求することもまた、主たる特徴の一つである。

ショパンはこれらスケルツォの具体的な意味や理念について、明確に述べてはいない。しかし、そのタイトルと「陰と陽」の明確な楽曲の構成に、19世紀当時の文学的、芸術的な傾向とのつながりが垣間見られる。

18世紀末期、ヨーロッパでは絶対主義に基づく従来の体制への不満が高揚し、「自由」への覚醒が起こった。表現の場においても革新的な活動が盛んとなり、文学の場では愛や理想、失望、幻滅などの感情を自由に、露骨に表現した作品が書かれるようになった。ユーモアや諧謔を定義づける試みもまた、このような中で行われた。

ユーモアの意味については、ヨーロッパ各国の文学者らが様々な見解を述べている。例えば、ドイツの作家ジャン・パウル(1763-1825)は次のように述べる。

「ユーモアにとっては、個々の愚かさとか、一人びとりの愚人といったものは存在せず、愚かさ及び愚かな一世界が存在するのみである。(……)人間が、この世ならぬ世界からこの世をながめおろせば、この世は、みみっちく、あだにうごめいている。ユーモアがやるように、小さなこの世を尺度にして、無限の世界を測り、それと小さな世界とを結びつければ、笑いが生じ、この笑いのうちには、やはりある苦痛と、ある偉大さとが存在している」

相反する二つの感情もしくは二つの次元の狭間で泣き笑いする人間は、ロマン主義時代の諧謔の主要なテーマの一つである。それは、神の示した美の世界を傍らに、欲にまみれた現実世界から抜け出すことのできない人間に対する強烈な皮肉でさえある。

これらの言葉は、ショパンのスケルツォを理解する上で、大きなヒントとなるだろう。ショパンが誰よりも深く文学者たちの思索した諧謔の理念を理解していたことは、4つのスケルツォが証明している。

《スケルツォ 第4番》ホ長調。プレスト、4分の3拍子。1842年に着想され、1843年に完成した。ショパンの作曲家としての最盛期の作品であり、ジャンヌ・ド・カラマン嬢に献呈された。同時期に書かれた作品に《バラード 第4番》作品52《ポロネーズ 第6番》作品53がある。最高傑作を次々と生み出す一方、ショパンは体調不良と精神的な落ち込みに悩まされていた。とりわけ幼年時代の恩師ヴォイチェフ・ジヴヌィ(1756-1842)や親友ヤン・マトゥシンスキ(1809-1842)の死は、ショパンにとって破壊的な打撃となった。ジョルジュ・サンドの計らいでノアンで静養したショパンは、体調の回復を待ってパリに戻り、秋にはレッスンや作曲を再開した。

《スケルツォ 第4番》はこのような苦境の中で着想されたが、その作風は私生活の苦悩を感じさせない。スケルツォ4曲中唯一の長調であり、全体的に明るい、幸福な雰囲気に満たされている。ショパンならではのエレガンスと洗練された細部の美しさに際立った作品であり、先の三曲に見られた怒り、葛藤、痛み、慟哭などの表現は希薄である。

ABAの形式をとるが、形式はより複雑かつ自由であり、ソナタ形式にも類似する。第1主題部では、ゆったりとした穏やかな旋律と笑い声を思わせる素早いパッセージが交互に現れ、高雅で軽やか、柔軟性に富んだ曲調を提示する。このように第4番のスケルツォは他の3曲と曲想の上で違いはあるが、ニークスの言葉を借りれば、調和の妙、旋律の狡猾さ、リズムの機敏さにおいては、無視できないほど強力である。

チャールズ・ウィルビーはまた、17小節目の上行するフレーズについてバラード第3番の冒頭との類似性を指摘している。そのうえで、「この作品の絶対的な価値はアイデアの独創性以前に、細部の絶妙な処理にある」と述べる。

レチタティーヴォ風のパッセージに導かれて展開する中間部では、美しいカンタービレが切々と甘い旋律を歌う。愛の語らいを思わせるその旋律は幅広い音域を上行下行する伴奏に合わせてゆっくりと上行し、高音域に達した瞬間、うねるような素早いパッセージにかき消される。二重持続低音が緊張感を高める中で、再現部に移行する。ここでは最初の第1主題部同様、第1主題が転調を繰り返しながら多様な表情を見せる。聞き手を欺き、嘲笑うかのような素早い転調は、ショパンが仕掛けたある種のトリックであり、素直さと茶目っ気を併せ持つ作品の性格を露呈する。コーダでは力強いオクターブが第1主題を断片的に繰り返し、素早いスケールが華麗な響きを残し、終曲となる。

参考文献(※本文中の引用はすべてこれらの文献に基づく。)

・ショパン スケルツォ集: New Edition 解説付(大嶋かず路 解説)、東京:音楽之友社、2015年。

・Huneker, James, Chopin: The Man and His Music, New York: Dover Publications, 1966.

・Leichtentritt, Hugo, Frédéric Chopin, Berlin: Harmonie, 1905.

・Tomaszewski, Mieczysław, Chopin: Człowiek, Dzieło, Rezonans, Kraków: Polskie Wydawnictwo Muzyczne, 2005.

・Willeby, Charles, Frederic François Chopin, London: Sampson low, Marston & Company, 1892.

・The 18th Chopin Piano Competition/Compositions https://chopin2020.pl/en/compositions

執筆者: 大嶋 かず路

執筆者 : 朝山 奈津子 (2065文字)

更新日:2008年7月1日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1362文字)

更新日:2018年3月12日
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参考動画&オーディション入選(1件)

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