作品概要
解説 (2)
執筆者 : 朝山 奈津子
(2151 文字)
更新日:2008年7月1日
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執筆者 : 朝山 奈津子 (2151 文字)
ピアノ曲のジャンルとしてのポロネーズには、長い伝統がある。
起源はポーランドの大衆的な舞踊で、歌を伴い、結婚式など格式のある祝祭で行なわれた。これが徐々に騎士や下級貴族のものとなって洗練され、やがて王侯の宮廷に取り入れられると、歌が無くなって器楽伴奏のみの行列舞踊となる。行列舞踊とは、整然と列を成して比較的ゆっくりと歩くようなタイプのもので、参会者の顔合わせや挨拶、あるいは衣装の見せあいなどの機能を果たす。宮廷舞踊となったポロネーズは、ポーランドの代表的な舞踊として国際的に認められたのみならず、ポーランドの民族精神を表現するもっとも象徴的な音楽となった。
しかし、「ポロネーズ」という名称は、フランス語で「ポーランド風の」という意味であり、18世紀以前にはポーランド国内の史料には現われない。器楽、とくに鍵盤曲のジャンルとしての「ポロネーズ」は、ポーランドではなくドイツやフランスで発展した。それらは確かに、宮廷ポロネーズの器楽伴奏に端を発したのではあるが、バッハが《フランス組曲 第6番》に取り入れた頃にはもはや舞踊の伴奏としての機能は失われていた。ポロネーズは、元の舞踊が持っていたリズムや楽式を受け継いで、ポーランド趣味、一種の異国情緒を感じさせる形式へと姿を整えていった。こうしたものは、またポーランドへと逆輸入された。
19世紀初頭にショパンが継承したポロネーズとはこのように、郷土の伝統というよりは国際的に久しく通暁していた形式あるいはジャンルのひとつだった。しかし、1830年以降のパリにおいてショパンがポロネーズを書く、ということには、また別の意味があった。このときポーランドは地図上から消えた国家であり、パリには亡命したポーランドの文化人たちが終結していたからである。聴衆はショパンの音楽の本質に「ポーランドらしさ」を求めたし、ショパンもまた、憂国の士としてこれに応えようとした。パリ・デビューより後に書かれたポロネーズとそれ以前のものとが大きく異なっているのは、そのためである。パリ到着以前のショパンのポロネーズは、超絶的な技巧をひたすらに誇示するものか、オペラなどで有名な旋律をポロネーズのリズムでパラフレーズしたものばかりである。しかし、これらは作曲家自身によって価値なしと見なされたのか、生前に出版されなかった。これに対して1835年以降の7つのポロネーズは、旋律と和声の点できわめて独創的であり、ショパン独自の様式が余すところ無く発揮されている。
通称を「英雄ポロネーズ」とよばれる本作は、この作曲家の明るく健康的な面のみを凝集した壮麗な主題を持ち、ピアノ曲としてほぼ最高レベルの演奏技術を要求する点で、ショパンの最高傑作のひとつに数えられる。
しかし、この作品はけっして難解な音楽ではない。旋律は明解で、形式はきわめて簡明である。全体は、前奏も含めてほぼ完全に、16小節を1セクションとする。この16小節は4×4から成り、各部が起承転結に相当する。楽曲は前奏で始まるが、そこから16小節を4セクションをおき、この4つがさらに起承転結の機能を担う。再現部分(第155小節以降)では、冒頭部分の2番目のセクションが回帰し、8小節のコーダに入る。コーダもまた、2×4で起承転結を分担している。最後の3小節は、コーダの「結」の部分の反復である。(ところで、冒頭部分の前奏16小節は自身が4×4の起承転結を内包する一方、前半4セクションから成る大きな起承転結に対しては、「起」の部分の拡大形とみることができる。)
この理路整然とした構造が少しずつ変形されるのが、中間部(第81-154小節)である。第81-84小節は、続く16小節に対する前奏であり、「起」の拡大として働く。第100小節の2番目の音から第101小節第1拍までの6つの音は、「結」の拡大と、次の「起」の拡大に対するさらなる準備の2つの機能を備えている。次のセクションでこれに相当するのは第120小節だが、こちらでは「結」よりも「起」の機能の方が強い。そして、3つめのセクションは、「転」と「結」が大幅に拡大する。第129-132小節の楽節は3回繰り返される。4回目では低音でも高音でも c すなわち f-moll の属音が執拗に鳴り続ける。この第129小節以降は、もはや4小節単位の明解な起承転結を放棄し、右手の半音階進行の効果も利用して、音楽がどこへ向かうのかを曖昧にしたまま進んでいく。f-moll の属音が遠くから聞こえてくるが、解決されないまま、半音階のユニゾンへ突入する。この小昏いトンネルを抜けた先には、唐突に、明るい冒頭の主題が待ち受けており、再び秩序正しい世界が戻ってくる。更に上位の構造を考えるなら、第81小節以降の最初の40小節が「起」および「承」、第129-154小節が「転」、第155小節以降を「結」と見なすことも可能だろう。
このように《英雄ポロネーズ》は、いくつものレベルで起承転結の構造をもっており、それ故にドラマ性と推進力に満ちている。今日ではこの作品こそポロネーズの典型と感じられるまでになった。真の傑作であるだけでなく、これ以前と以後のポロネーズを考察する際にひとつの規範を示す作品である。
演奏のヒント : 大井 和郎
(1396 文字)
更新日:2018年3月12日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1396 文字)
このポロネーズに挑戦される方はある程度技術がしっかり備わっている方だと思います。このポロネーズの失敗例としては、「雑な演奏」になってしまうことです。多くの音が重なる中で、1つ1つの音を大切に扱い、全ての音がはっきり聞こえるように、丁寧に練習することがポイントになります。 ところで、このポロネーズの典型的な誤った演奏法を冒頭からお知らせします。1-16小節間になります。この1-16小節間の拍を:1小節目から順番に、3拍子、4拍子、5拍子と取って5小節目に達する奏者が多く見られます。以下同様ですが、これは2小節目も3小節目も4小節目も3拍子です。 譜読みの時点ではそう読んでいても、慣れてくると拍の認識がなくなり、ルバートをかけて勝手に自分の拍子を作ってしまう奏者がいます。 例えば3小節目の1拍目は和音の解決の部分で弱く弾きますので、1拍目という認識が難しいですね。4小節目の1拍目も3小節目の16分音符の続きですから1拍目の認識というのが薄くなりますね。結果、3小節目の2拍目から4小節目の3拍目まで5つの16分音符のグループを1まとめで考えてしまい、結果テンポルバートがさらに派手になり、拍は完全に失われます。 いかなる時でも、拍の認識は必要です。覚えておいてください。27小節目のトリルははっきり3つの音が聴き取れるように弾いてください。 33小節目、2拍目のトリルの話になります。まず、Esは2つありますので、2つはっきり聴かせてください。次に、テンポが速く、時間が無い場合は Es Es F Es D Es As と弾いても良いと思いますし、余裕があれば、もっと音を足しても良いと思います。いずれのケースにしろ、ここをごまかさない事。何が何だかわからなくなるような演奏にならないように気をつけます。37小節目、 38小節目、も同様です。 49小節目、付点は書いていませんが、付点のリズムの話です。これらのリズムが重たくなってしまう奏者がいます。問題は32分音符の処理の仕方にあります。例えば49小節目、1拍目から2拍目 へ向かうとき、この32分のCに力が入ってしまうと、極端にスピードは遅くなります。コツとしては、この32分のCを次の8分音符にくっついている装飾音と考えます。装飾音と考えたとき、手のモーションは2回力を入れるモーションではなく、1回で2つの音を弾いてしまうモーションにな ります。力は2拍目の8分に入り、それを弾こうとしたときたまたま32分に触れてしまった位に、全く力を入れず、一気に2つの音を弾きます。以下同様です。 さて、Bセクションのお話です。ショパンは常に軍隊が自分のもとにやってくるのではという恐怖 にさらされた人生を送っていました。その恐怖の表現が81小節目から始まるBセクションになります。このセクションで問題となるのは左手のオクターブの連打にあります。要するに疲れるのです。疲れてくると音が抜けたりと大変な思いをしなければなりません。解決法としてはハノンがあります。このセクションを何度弾いても疲れる人は、筋肉が不足しています。ハノンを1-60番まで通してみてください。そのあともう一度このセクションを弾いてみてください。違いが歴然とすると思います。 とにかくこのポロネーズは「丁寧に練習」し、「大胆に演奏」することがヒントです。
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