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バッハ : 平均律クラヴィーア曲集 第1巻

Bach, Johann Sebastian : Das wohltemperierte Clavier, 1 teil, 24 Praludien und Fugen BWV 846-BWV 869

作品概要

作曲年:1722年 
出版年:1801年 
初出版社:Simrock, Hoffmeister & Kühnel, Nägeli
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集

解説 (1)

総説 : 朝山 奈津子 (1650文字)

更新日:2007年5月1日
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「うまく調律されたクラヴィーア(Das Wohltemperirte Clavier)、あるいは、長三度つまりドレミ、短三度つまりレミファにかかわるすべての全音と半音を用いたプレリュードとフーガ。音楽を学ぶ意欲のある若者たちの役に立つように、また、この勉強にすでに熟達した人たちには、格別の時のすさびになるように。元アンハルト=ケーテン宮廷楽長兼室内楽団監督、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが起草、完成。1722年。」

18世紀前半にはまだ、現代的な意味での十二等分平均律(1オクターヴ12音の各周波数比を2の12乗根とする調律法) を実践できなかったが、少なくともバッハは「24の調がすべて綺麗に弾けるように自分の楽器を調律することを学んだ」(フォルケル)と言われている。この曲集が《インヴェンション》と同じく教程として編まれたことは間違いない。しかし同時に、全調を用いて音楽の世界を踏破するという大きな理念が込められていた。「世界」の普遍的な秩序を捉えること。これは16-17世紀を通じて希求された究極の神学的課題である。《平均律クラヴィーア曲集》は、神の秩序をうつしとった、小さな完成された「世界」(ミクロコスモス)なのである。

このことは音楽的にどのように確かめられるだろうか?

ひとつの調には自由な書法のプレリュードと厳格な書法のフーガが1曲ずつ配されるが、多くの場合、これらは調以外にはほとんど何らの関連もない。両者は「自由」/「厳格」という対立項ですらないし、プレリュードは文字通りフーガの「前奏」であるわけもない。プレリュードにはきわめて多様な新旧の書法、形式、様式のものが現れる。またフーガにせよ、簡明、あるいは比較的自由なものから、厳格対位法の極限を追究するものまで、さまざまである。それでも、各曲は24の調の世界で自らの位置を保ち、全体で秩序を成す。まさに「多様な中にも多様なものの統一」であり、これこそ「世界」の似姿なのだ。《平均律》は言うまでもなく、つねに全24調を通して弾くことを想定した曲集ではない。しかしどの1曲を取り出してもそこには「世界」の一角が宿っている。

ここで、「調の性格」という概念について考えてみなければならない。バッハと同時代のハンブルクの音楽家マッテゾンは、各調がそれぞれ固有の絶対的な性格を表現する、という硬直した考えに再三の警告を放ったうえで、「荘重にして高貴」(ニ短調)、「洗練をきわめる」(ヘ長調)、「荒削りで頑固」(ハ長調)、「鋭く頑固」(ニ長調)などと性格付けを試みた。バッハも、こうしたそれぞれの調に対する一般的なイメージを顧み、さらに当時はほとんど馴染みのなかった――簡単に言えば調号の多い――調に初めて固有の性格を与えた(もっとも、原曲を移調して曲集に加えられたものもあり、マッテゾンの言うとおり、調の持つ表現の多様性を無視してはならない)。調性格論のさらなる展望を得るには、声楽曲を含めたバッハの創作全体を見渡す必要があるが、《平均律》第I巻では少なくとも、シャープ系は輝かしく、フラット系は柔和な傾向にある、ということができよう。

作曲は1720-22年、ケーテンに務めた時代、また長男フリーデマンに音楽の手ほどきを始めた時代にあたる。フリーデマンの音楽帖にはすでに11のプレリュードの原曲が見られる。1722年に浄書された。18世紀には筆写譜を通じ広く伝えられ、モーツァルトやベートーヴェンもよく研究した。出版譜は1801年、19世紀の始まりを告げる年に、ドイツ語圏の3つの出版社から同時に刊行された。ライプツィヒのホーフマイスター・ウント・キューネル社(のちのペータース社)ではフォルケル、ボンのジムロック社ではシュヴェンケ、チューリヒのネーゲリ社はネーゲリ自らが校訂している。この出版がバッハ・ルネサンスの嚆矢となった(なお、フォルケルは出版上の手違いから第II巻を先に刊行した)。

《平均律クラヴィーア曲集 第2巻》もご覧下さい。

執筆者: 朝山 奈津子

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