ショパン : 幻想即興曲 (遺作) 嬰ハ短調 Op.66
Chopin, Frederic : [Fantaisie-] Impromptu (posthume) cis-moll Op.66
作品概要
解説 (2)
執筆者 : 朝山 奈津子
(1376 文字)
更新日:2008年7月1日
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執筆者 : 朝山 奈津子 (1376 文字)
「Impromptu」とはラテン語に由来し、「準備のできていない」ことを意味する。この言葉は1822年に偶然にも二人の作曲家が同時に自作品に用いたのが最初とされる。音楽ジャンルとしての即興曲は、演奏技術としての即興とはあまり関係がない。それは単に、即興風の雰囲気を反映した楽曲という意味であり、19世紀以降の音楽ジャンルである(なお、即興風の音楽というアイデア自体はけっして19世紀固有のものではないが、それ以前には、トッカータ、カプリッチョなど様々な名称で呼ばれた)。
19世紀前半において、即興曲の伝統は大きく2つの流れがあった。ひとつは、流行しているオペラ・アリアの旋律や民謡旋律などを変奏しながら続けるもので、チェルニー、カルクブレンナーなどの他、リストにも佳作がある。もうひとつが、特定の形式をもたない抒情的な音楽内容のもので、この言葉を最初に用いたというヴォジーシェク、マルシュナーのほか、シューベルトの即興曲がその代表である。ただし、形式が定まらないといっても、多くはA-B-Aのアーチ型をしている。
ショパンは、シューベルトに連なる伝統を継承し、その創作の中期に《幻想即興曲》および3つの《即興曲》を残した。いずれも明確なアーチ型であり、中間部を「ソステヌートsostenuto」と称する。
本作は最初に書かれた《即興曲》であり、1835年にエステ公夫人に献呈、その音楽帳に作曲家自ら浄書した。しかしこの時ショパンは出版を意図していなかった。初版は死後、友人フォンタナの手によって1855年にドイツ、翌年にフランスで出る。しかしこれはどうやらエステ公家の音楽帳とは異なる資料に基づくとみられる。フォンタナによれば、ショパンが《即興曲》作曲したのは1834年。とすれば、初版譜は自筆浄書より古い稿として資料的価値があるということになる。これらの大きな違いは、中間部が「Largo/Moderato cantabile ♩=88」から「più lento/sostenuto」に改められ、一切のメトロノーム記号が削除されたことである。初版では、冒頭のAllegro agitatoにも「二分音符=84」の指定があった。初版がもし本当に、消失したもうひとつに自筆譜に基づくのだとすれば、1834年から35年のわずかな期間に、ショパンの即興曲に対する根本的な考えが変化ないし確立したということができる。初版はショパンの友人フランショムの筆写譜にも一致する点が多く、もうひとつの自筆譜が存在した可能性はきわめて高い。なお、《幻想即興曲》の名称もフォンタナの初版に帰するもので、ショパンの自筆譜にはただ《即興曲》とのみ書かれている。
この作品に用いられる「即興」技法は、第1番や第3番にみられるものとほぼ等しいが、実際にはそれほど効果を上げていない。また、左手が3分割であるのに対して右手を2分割とし、平行しながら決して交わらない2つの流れを生み出している。しかしこれも、切迫する2拍子の刻みを振りきるには至っていない。この曲の魅力は、結局のところその旋律の美しさなのだ。これだけ感傷に満ちた旋律を執拗に繰り返しながらも――全体が短調であるのにほとんど深刻さを感じさせないのは、この見え透いた感傷のお陰である――、まさに天才的な旋律美のなせる技といえよう。
演奏のヒント : 大井 和郎
(3642 文字)
更新日:2018年3月12日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (3642 文字)
リズム通りに演奏するとこれほどおかしくなる曲も珍しいのではないかと思うほど、リズム通りに演奏してはいけない典型的な曲です。この曲のヒントはズバリ、「気の向くままに弾く」事が最終的に重要になります。だからといって基本的な技術を怠ってはいけません。この曲はもう1つの典型的な特徴があり、それは「かなりのごまかしが利く曲」でもあります。 学習者はまず地道に左手や右手のパッセージを完璧にマスターした上で、曲を崩してください。 5小節目以降、ペダルなしで演奏した場合、左手の6連符の粒ぞろいがよくわかります。左手3に対して右手4というのは計算上割り切れません。ですからそのような事を考えずに弾くわけですが、そうすると左手のパッセージが崩れていることがなかなかわかりにくい曲でもあります。そのような時はペダルを外すとよくわかります。 このAセクションで難しい部分は、7-8小節間と、11-12小節間の2つです。この2つさえなんとか弾けるようになればあとはなんとかなるものです。例えば7-8小節間の7小節目はほぼアルペジオとスケールです。ここはなんとかなります。厄介なのが8小節目で、色々工夫をして練習をしてください。指番号も大切かもしれません。 13小節目以降、今度は別の問題が起きてきます。このセクション、実は必要な音は1拍に1つだけであとはppで弾かなければなりません。ここのセクションでトラブルのある人は、1 基本的筋肉が欠如しているか、2独立に問題があるか、3手が極端に小さいかのどれかです。もしかしたら3つのうち2つかもしれないし3つ全部かもしれません。1つの練習方法ですが、まず13小節目の1拍目を例に取りましょう。Gisのオクターブを1と5の指で両方同時におさえます。その状態で中に入る His と Cisをトリルにしてみましょう。今度は、中のHis とCisを2つ同時におさえ、その状態でオクターブを分散させてみましょう。どちらもうまく行ったら、1拍目だけを何度も止まらずに繰り返してみましょう。これで弾けていればここは大丈夫です。 このようにして全てのユニットを弾けるように練習してみましょう。手のサイズの小さな方は、勿論メロディーラインをバッハのように押さえておく必要はありません。1拍分ペダルで伸びさえすれば指を鍵盤から離してしまって構いません。13ー16小節間、右手の4つの拍のそれぞれの頭の音は4分音符も兼ねているはずです。ですので、これらの音をメロディーラインとしてよく聴かせ、残りの3つの音は可能な限りppで弾いてください。 さて、筆者の楽譜には17小節目以降も拍の頭が4分音符になっていますが、多くの楽譜は、裏拍の高い音にアクセントが付いていたりしていないでしょうか?つまりは、今度は高い方の音がメロディーラインになるということです。この場合も勿論、メロディーライン以外はppで弾きます。 この、「メロディーラインだけを出して、あとはppで弾く」というのもなかなか難しいことであると思います。そこで効果的な練習方法をお教えします。 テンポをかなり落とした状態で、メロディーラインをff、それ以外をppにします。できなければもっともっとテンポを落とします。4分音符=30以下に落としてもかまいません。とにかく、ppとffの違いがはっきり出せるテンポにしてください。そのテンポで練習してみましょう。上手くいったら、少しずつテンポを上げていくのですが、ppとffの秩序は守るようにします。 もしも、この練習の際に、ppが出せない学習者はまず全ての16分音符をffで弾いてみてください。その上で再チャレンジしてみてください。ffが出せないことにはppはとても難しくなります。 これと同じテクニックが必要になる場所が119小節以降です。アクセントが書いてあるでしょうか?ちなみに119-120小節間のメロディーラインは、E E Dis Dis Cisになります。 さて、それでは音楽的なお話に移ります。1ページ目をご覧ください。5小節目で1つ、6小節目で1つ、7-8小節間で1つの、合計3つのフレーズに分けることができますね。3つのフレーズの間にはわずか1個の16分休符があります。この3つのフレーズをコンピューターのように楽譜通りに演奏すると大変なことになってしまいます。音楽は完全に失われてしまいます。ゆえに、この3つのフレーズを弾くとき、1つのフレーズを「ひとかたまり」と考えます。そして、そのひとかたまりの次に来るもうひとかたまりの前に、十分にブレスを取ることが重要になります。しかしながら、先ほども言いましたように、フレーズとフレーズの間にはわずか16分休符1個しかありません。よってルバートをかけます。仮に5小節目の15個の16分音符をひとかたまりとして一気に、テンポよりも速く弾きます。そうすると本来のタイミングよりも速いので次のフレーズまでに16分休符1個分以上の間隔が空くはずです。そしてそれが実は求めている演奏法です。 フレーズの間に十分に時間を取ること。そしてそれには16分音符を予定よりも早く一気に弾いて、その詰めた分休符に時間を取るということです。これが1つめの重要事項。 2つめは、バランスにあります。これだけ多くの音が書かれてあり、右手と左手は実に近い位置にあり、結果、音が密集していますね。バランスと言うのは左手の問題にあります。左手のバス以外の音、はpppで弾きます。つまりほとんど聞こえなく弾きます。この2つがこのAセクションを弾く際の重要事項です。 13小節目以降、A2とでもしましょうか。このセクションのメロディーラインは、Gis Fis Eis Fis Cis Dis E Gis Gis Fis Eis Fis Eis Fis A Gis となります。これらの音を単旋律で弾いてみましょう。そしてたっぷりルバートをかけます。ルバートをかけると最初のGisにはかなりの時間を食い、次のFisがスタートしたら今度は前向きに音楽を進め、最後の3つである、Fis A Gisあたりはかなりテンポが落ち、ゆっくり消えるように終わることであると思います。何度も試してみてください。そして納得の行く、自然な流れを掴んでください。 単旋律で弾けるようになったら、今度はその流れを全くそのまま再現できるように、他の音も足してください。16分音符はかなりスピードに差があることが分かると思います。そのように、とにかく自由に、拍に束縛されずに進まなければなりません。 再びA1に戻りますが、30小節目から、少しagitato気味になり、緊張感を増してください。テンポは前向きに。ダイナミックはクレシェンドです。そして37小節目に達します。ここがゴールになります。この辺りのテンポもかなり自由に、ルバートをたっぷり利かせます。 40小節目から41小節目は、新たなセクションに入る重要な部分です。41小節目には版によってはffマーキングが付いていますが、鵜呑みにしないようにします。40小節目の流れを受け継ぐように自然に41に入ってください。 42小節目から歌の部分に入ります。典型的な失敗例としては、この部分をpで弾いてしまうことです。勿論ダイナミックマーキングはpかもしれませんが、歌の部分というのはどんなにppでも、はっきりと人の耳につたわらなければなりません。死にそうな音やぼやけた音を出さないように、かつ、滑らかなシェーピングも必要になります。 バランスの問題はここでも重要です。左手はppで。60小節目fマーキングがありますが、筆者であればそこまで強い音は出しません。印象に残る音で無ければなりませんが、突然フォルテの鋭い音が出ないようにします。62小節目の3-4拍はカラーを変えます。ソフトペダルを使って良いと思います。 このセクションで典型的な失敗例としては、例えば65小節目の4拍目に書かれてあるような装飾音を実に機械的に処理してしまうことです。覚えておいてください、これは歌手が歌うメロディーです。この、F Es Des Es F という音でさえ、メロディックでなければなりません。そしてそんなに速く歌えるものではありません。ゆっくり目に弾き、固くならないように、4拍目頭のFに向かって進むようにします。以前、以降、このような装飾音は音楽的に処理します。 129小節目、嵐の後の静けさの中で、Bセクションのメロディーが再び頭に蘇ります。Bセクションのメロディーのシェーピングをそのまま、左手で弾いてください。 最後の小節の和音をアルペジオで弾くとき、前の小節のtopであるDisは5の指などで押さえておいた状態でCisに変えます。いかなる時にも旋律が切れないようにするためです。ご参考まで。
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