「Impromptu」とはラテン語に由来し、「準備のできていない」ことを意味する。この言葉は1822年に偶然にも二人の作曲家が同時に自作品に用いたのが最初とされる。音楽ジャンルとしての即興曲は、演奏技術としての即興とはあまり関係がない。それは単に、即興風の雰囲気を反映した楽曲という意味であり、19世紀以降の音楽ジャンルである(なお、即興風の音楽というアイデア自体はけっして19世紀固有のものではないが、それ以前には、トッカータ、カプリッチョなど様々な名称で呼ばれた)。
19世紀前半において、即興曲の伝統は大きく2つの流れがあった。ひとつは、流行しているオペラ・アリアの旋律や民謡旋律などを変奏しながら続けるもので、チェルニー、カルクブレンナーなどの他、リストにも佳作がある。もうひとつが、特定の形式をもたない抒情的な音楽内容のもので、この言葉を最初に用いたというヴォジーシェク、マルシュナーのほか、シューベルトの即興曲がその代表である。ただし、形式が定まらないといっても、多くはA-B-Aのアーチ型をしている。
ショパンは、シューベルトに連なる伝統を継承し、その創作の中期に《幻想即興曲》および3つの《即興曲》を残した。いずれも明確なアーチ型であり、中間部を「ソステヌートsostenuto」と称する。
第3番は、第1番とほぼ同様の手法を用い、ショパンの《即興曲》の典型をなしている。すなわち、無窮動の三連音符とずらされたアクセント、多用される前打音などがそれである。第3番では新たに、テクスチュアの濃淡によってテンポ感を操作する手法が取り入れられている。
また、第1番の主題と第3番の序奏旋律はどこか関連を感じさせる。そのようにみると、4つの《即興曲》のすべてに旋律の連関を見いだすことも可能である。たとえば、第1番のSostetuto主題と第2番の冒頭主題の旋律と《幻想即興曲》のSostenutoに現われる旋律の骨格は、明らかに類似している。ただ、こうした連関をショパンが意識していたとは確かめられないし、たとえ意図的なものであったにせよ、作曲家の遊び以上のものではないだろう。4つの《即興曲》は各曲の独立性が強く、通奏するタイプの曲集を成していないからである。