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ショパン : 即興曲 第1番 変イ長調 Op.29

Chopin, Frederic : Impromptu no.1 As-Dur Op.29

作品概要

楽曲ID:470
作曲年:1837年 
出版年:1837年
初出版社:Wessel, Schlesinger
献呈先:Caroline de Lobau
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:即興曲
総演奏時間:4分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

ピティナ・ピアノステップ

23ステップ:展開1 展開2 展開3

楽譜情報:11件

解説 (2)

執筆者 : 朝山 奈津子 (899 文字)

更新日:2008年7月1日
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「Impromptu」とはラテン語に由来し、「準備のできていない」ことを意味する。この言葉は1822年に偶然にも二人の作曲家が同時に自作品に用いたのが最初とされる。音楽ジャンルとしての即興曲は、演奏技術としての即興とはあまり関係がない。それは単に、即興風の雰囲気を反映した楽曲という意味であり、19世紀以降の音楽ジャンルである(なお、即興風の音楽というアイデア自体はけっして19世紀固有のものではないが、それ以前には、トッカータ、カプリッチョなど様々な名称で呼ばれた)。

19世紀前半において、即興曲の伝統は大きく2つの流れがあった。ひとつは、流行しているオペラ・アリアの旋律や民謡旋律などを変奏しながら続けるもので、チェルニーカルクブレンナーなどの他、リストにも佳作がある。もうひとつが、特定の形式をもたない抒情的な音楽内容のもので、この言葉を最初に用いたというヴォジーシェク、マルシュナーのほか、シューベルトの即興曲がその代表である。ただし、形式が定まらないといっても、多くはA-B-Aのアーチ型をしている。

ショパンは、シューベルトに連なる伝統を継承し、その創作の中期に《幻想即興曲》および3つの《即興曲》を残した。いずれも明確なアーチ型であり、中間部を「ソステヌートsostenuto」と称する。

第1番では、旋律が拍節構造にはまりこんでしまうのをできるだけ避けようと、様々な工夫がなされている。第1番では、右手の旋律が跳躍進行と順次進行を組み合わせて作られるが、跳躍はたいていが弱拍に現われる。旋律上のアクセント位置をずらす手法も多様で、冒頭のトリルがすでにこれに当たる。また、第8小節に登場するシンコペーションの動機や、Sostetuto部でしばしば第2拍に付けられるアクセントはもちろん、第23小節では三連音符を2つずつにまとめるよう指示されている。

こうした実にきめの細かな演奏指示は、即興の雰囲気を演出するためであり、即興曲がきわめて精緻な計算のもとに作曲されていることがよく判る。軽やかな紡ぎだしの旋律や無窮動の左手の伴奏が効果を表わして、即興曲のひとつの典型をなす作品となっている。

執筆者: 朝山 奈津子

演奏のヒント : 大井 和郎 (1796 文字)

更新日:2018年3月12日
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この即興曲は実に幅広いレベルで演奏されます。技術がそれほど得られていない学習者でもなんとか様になります。その場合テンポは落ちますが、本来この即興曲はものすごく速いテンポで演奏されて然るべきです。ここで1つ厄介な問題があります。版によって、拍子記号が異なるのです。筆者は今、2つの版を同時に見ていますが、1つは4/4、もう1つは2/2となっていて表示記号は、Allegro assai, quasi Prestoと明記されてあります。どちらが正しいか正しくないかはともかくとして、どちらに転んでもかなり速いことには間違いありません。  テンポを速くした時、技術的な問題が左手に起こりやすくなります。1小節目を例にとりましょう。このような、オクターブよりも広いパッセージを弾くのは大変ですね。そこでちょっとした練習方法をお教えします。  ※ここからの説明はこの曲が4/4と仮定して説明いたします。  1小節目1拍目のAs C Es を練習してみましょう。このように広いリーチが必要なパッセージは まず中心になる音を1つ決めてしまいます。この場合3つの音ですので、自動的にEsを中心の音とします。 1 中心のEsに3の指を置きます 2 3の指をEsから離さずに、Asを弾いてみましょう。Asは5の指ですし黒鍵になりますが、5の指をまっすぐ伸ばさず、多少カールして指先でしっかりと打鍵をすると良いです。Asをフォルテで弾いたとき、打鍵した瞬間にぐらつきが無ければ良いです。小さな音しか出ない人や、打鍵した瞬間にぐらつく人は、何度かこの動作を繰り返してください。徐々に音は大きく出せるようになり、ぐらつきも治まってきます。 3 次に1の指で上のCを弾いてみます。これはそこまで大変ではないですね。 4 次にCからAsに素早く降りてきましょう。勿論3の指は残したままです。 5 次にAsからCに素早く上がってみましょう。そしてこれらの4,5を繰り返します。 6 次にAsを押さえた状態で、Esを強く打鍵します。 7 次にCを押さえた状態で、Esを強く打鍵します。 8 次に、As Es C Es As Es C Es とループしてみましょう。これが上手くいけば1拍目は問題なく弾けるはずです。 9 次に、3でEsを押さえた状態で、Es以外の1小節目にある全ての左手の音を弾いてみましょう。As C D C B Des D Des となるはずです。この動作を速くできたら、今度は楽譜の通り、普通に弾いてみてください。格段に楽になっているはずです。  この1小節目の練習方法を参考にして、他の小節でも弾きにくい左手が出てきたら、今の練習をやってみてください。 1小節目の音楽的な話になります。筆者の2つの版には、両方とも4拍目にむけてクレシェンドが書いてあります。右手のメロディーラインの高低を見ても、左手の和声進行を見ても、4拍目に向かうに従い、確かにクレシェンドをかけた方が自然なシェープとなります。しかしながら1つだけ注意点があります。4拍目右手のEsはくれぐれも、前の音のEよりも大きくならずに、逆に小さくなるように弾いてください。つまりは、3拍目のFを頂点とし、Esに向かって下がってください。  7小節目、3拍目で右手がオクターブ上のGに行きますが、飛び込まず、ほんの少しだけ時間をとってGに達してください。  8小節目3拍目より10小節目3拍目まで と 10小節目3拍目より12小節目3拍目までのカラーを変えてください。奏者の感じるように変えて構いません。  15小節目2拍目より、1つの音符から2本棒が出ている音符だけを聴かせるようにします。また、23小節目より、アクセントが付けられている音符のみを出すようにします。  35小節目、Bセクションはテンポを自由に扱い、決してメトロノームのようにならない事が重要です。45小節目や、48小節目などは十分時間を取って右手の細かいパッセージを弾きます。  奏者が犯しがちな間違いが62の3拍目から64の1拍目まで。ここで、バスを失ってしまう奏者がよくいます。このようなアルペジオマーキングの時に、左手の1番したの音と右手の音のタイミングを合わせ、残りの左手は右手が鳴ってから遅れて弾くようにすると、バスを伸ばすことができますし、ペダルも濁りません。

執筆者: 大井 和郎