作品概要
作曲年:1720年
出版年:1843年
初出版社:Peters
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:前奏曲
総演奏時間:10分20秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (1)
執筆者 : 朝山 奈津子
(2668 文字)
更新日:2008年6月1日
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執筆者 : 朝山 奈津子 (2668 文字)
バッハは《平均律クラヴィーア曲集》、《インヴェンション》、《シンフォニア》など、内容も曲数もひじょうに豊かな学習教材を制作している。それらは当初から明確かつ綿密な計画を持って進められていたが、その際にはいくつかの候補の中からそれぞれの主旨に合わせて選択したり、移調や改訂を加えたりすることがあった。一方では、曲集に取り込まれずに残された作品や異なる調の原曲とおぼしきもの、簡略な初期稿なども多数存在する。9つ、6つ、および5つの小前奏曲は、おそらくそうした小品を後生がまとめたもので、やはり学習教材として弟子から弟子へと伝承された。19世紀半ばのペータース社の鍵盤作品集(チェルニー/グリーペンケルル編)によって、曲集のまとめ方が定着、普及したとみられる。
この《9つの小前奏曲》はすべて《ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの音楽帖》に由来するが、かつてはBWV925-930までの6曲と《5つの小前奏曲》に《前奏曲ハ短調》BWV999を加えた「12の小前奏曲」として出版され、親しまれてきた。現在では、体系的な曲集に選ばれなかった「前奏曲(PraeludiumあるいはPraeambulum)」8曲と、シュテルツェルのパルティータにバッハが追加したメヌエットを合わせて9曲のまとまりとするのが慣習である。なお、《音楽帖》には924, 926, 927, 930, 928, 924a, 925, 932, 931, 929 の順で収められており、BWV番号の並びと――また作曲年代とも――一致しないが、本項では便宜上、BWV番号の順に解説する。
1. ハ長調 BWV 924
前半は両手による分散和音、後半はオルガン・ポイントとパッセージワークによる。こうした構成は、《平均律 第1巻》第1番のプレリュードを思わせる。和音が遙かに単純である一方、左手の和音には装飾音が施され、目先の変化を演出している。両手の音域は交わることはおろか近づくことさえなく、左手の深みのある響きの中に右手の和声音が浮かび上がる。
2. ニ長調 BWV 925
主題が両手パートに交互に現れる。筆跡から、W. F. バッハの作ではないかと言われている。またその律儀なまでの模倣、いささかぎこちない主題労作が、その説を裏付けるように思われるが、いずれにしてもJ. S. バッハの監督下で書かれたことは間違いない。
3. ニ短調 BWV 926
冒頭は4分の3であるのか8分の6であるのかをはっきりさせずに開始する。その後4分音符の刻みが入るが、8分音符の動機は相変わらず曖昧なまま進む。両手で鍵盤の幅いっぱいに渡るパッセージワークが現れたのちのヘミオラは、この曲全体に渡って待ち望まれたような終止である。
4. ヘ長調 BWV 927
ほとんど一貫して同じ音型が繰り返されるが、中間の第8-9小節でテクスチュアに若干の変化がある。また、最後の3小節も単旋律、和音、休符など音の厚みを多彩に変化させて終止を準備している。
5. ヘ長調 BWV 928
全体は、冒頭の主題と対主題、および主題動機素材の組み合わせを多彩に用いて組み立てられている。その展開はインヴェンションと呼んで差し支えないほどに巧みなのだが、声部書法が厳格でないためにプレリュードの範疇に留まっている。
主題の完全提示と展開、これを締めくくる完全終止のカデンツ、というまとまりを最初(第1-5小節)と最後(第20-24小節)に配し、全体はシンメトリックである。模続進行によって様々の調を通る中間部がこの曲の音楽的な頂点となる。大まかに分析すれば、第10小節でa-Mollに転じ、第17小節でa-Mollの完全カデンツが提示されるため、この間はa-Mollの領域を動いていない。しかし、第11小節からなだれを打ったように低声部へ模続進行し、第12小節後半から一転、急速に浮上して安定を取り戻す流れはドラマティックである。
6. ト短調 BWV 929
この作品はプレリュードではなく、「J. S. バッハによるメヌエット・トリオ」としてシュテルツェルの《パルティータ》に挿入されたものである。従って、単体よりもむしろ組曲全体、せめてシュテルツェルのメヌエット本体と共に演奏されるべきだろう。
メヌエット本体は、左手に2分音符が多いこと、両手で4分音符のカデンツを奏することから、テクスチュアが時にあまりに薄くなっている感がある。バッハのトリオはこれと対照的に、つねに8分音符の動機が流れるように動いており、一貫して3声で豊かに響く。また、メヌエット本体が主に分散和音と回音をを動機として用いるのに対し、バッハは倚音による階段状の動機を要所においている。そのため、非和声音がスパイスのような効果を発揮し、単調さを免れている。
なお、このトリオは《フランス組曲》第3番ロ短調の初期稿(BWV814a)に移調して用いられた。バッハが最終的にこのトリオを採用しなかった理由は、今までのところでは判っていない。
7. ト短調 BWV 930
ほぼすべての音に運指の指示が付けられている珍しい作品。現代のピアノには適さない、あるいは奏者の手の都合に合わないと感じる運指も時に含まれているが、この指示を忠実に守ってみると、フレーズの切れ目やアクセントの位置などがはっきりと感じられる。バッハの想定した響きを技術的に伝えてくれる貴重な資料である。
楽曲は2部分に分かれ、後半は前半冒頭の反行で開始する。各部を締めくくるカデンツも同種のもので、保続音とタイを用いて徐々に音が増えていくように作られている。こうした対称性は、組曲楽章にしばしば用いられる形式である。
8. イ短調 BWV 931
8小節ほどの短い曲で、W. F. バッハによって書かれている。さまざまな装飾記号が付けられているが、《音楽帖》の最初に示されたバッハによる装飾音表にはないような、フランス式の記号を多く含んでいる。また、その中には誤りと見られるようなものもある。フリーデマンが父以外の何らかの作品ないし教則を参照して、装飾の練習をした可能性がある。いずれにせよ8小節すべてがバッハの作とは考えにくく、バスや枠組みのみを父が提示し、フリーデマンが仕上げたのかも知れない。
9. ホ短調 BWV 932
未完。フリーデマンがJ. S. バッハの作品を書き写し始めたが、何らかの理由で筆写を中断されたようだ。冒頭は3声のフーガで始まり、完成していれば、かなり大規模な作品であったと思われる。
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