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ベルク :ピアノ・ソナタ ロ短調 Op.1

Berg, Alban:Sonate für Klavier h-moll Op.1

作品概要

楽曲ID:6805
作曲年:1907年 
出版年:1911年 
初出版社:Robert Lienau, Universal
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:11分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

執筆者 : 岡田 安樹浩 (1380文字)

更新日:2009年9月1日
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ベルクは1904年からシェーンベルクのもとで作曲の勉強を開始し、修作として100曲におよぶ歌曲を作曲した。1907年から08年にかけて作曲された『ピアノ・ソナタ』は、当初多楽章によるソナタとして構想されたようであるが、師のシェーンベルクの意見に従い、単一楽章のソナタとなった。

この単一楽章のソナタは、外見上は古典的なソナタの第1楽章におかれるようなソナタ形式に則って作曲されている。すなわち、性格を異にする複数の主題をもち、反復される提示部に展開と主題の再現が行われる。その意味で、リストの『ピアノ・ソナタ』のような、多楽章を一楽章に圧縮したような単一楽章ソナタとは異なっている。

しかし、楽曲の内容は古典的なソナタには背を向けている。ほとんど便宜的につけられた2つのシャープと、時折姿を見せるカデンツ進行によって、ロ短調という調性を確定させているが、伝統的なソナタにおいて楽曲の区分を明確にする機能を果たしていた関係調への転調というプロセスは、この楽曲の中では機能していない。

そもそも、冒頭から主題の素材が非常に限定されており、それらを組み合わせて楽曲が進行することから、極端にいえば楽曲全体が常に展開しているような様相を呈している。

冒頭の主要主題には、まず長7度という音程が示され、その転回音程である短2度がバス・ラインと内声部を形成する。そして旋律線にあらわれる2度の長3度下行音型が増3和音を形成する。ロ短調の終止形に続いて、すぐにこの2種類の音程関係を組み合わせる形で楽曲が進行し、第7小節では増3和音と関連して全音音階が出現する。

このように、冒頭からしてすでに非常に込み入った動機的な音程操作によって楽曲が構成される。

8分3連音符の動機が特徴的な推移の後、第29小節からあらわれる副次主題は、直前にホ音の属7の和音(第5音が半音高められている)と保続するイ音によってイ長調を印象付けられるが、やはり短2度の音程と全音音階が随所に顔を出し、性格的には異なるものの、主要主題との関連をいたるところに見出せる。

先ほどの推移であらわれた8分3連音符の動機と関連した16分6連音符の動機と、ここから導き出された旋律が主要主題の動機と結びついてコーダを形成する(第49小節~)。

展開部(第56小節~)は主要主題の動機によって開始されるが、動機的な展開というよりも、提示部においてあらわれたさまざまなリズム要素を組み合わせることによって緊張度を高め、第91小節のカトストロフへ達する。その後、副次主題の動機によって主題の再現を導く。

主要主題の回帰(第111小節~)によって再現部となり、副次主題はロ音の保続音上にあらわれる(第137小節)。16分6連音符の推移動機から導き出されたコーダの動機が、提示部と同様にあらわれると(第167小節~)、バス声部においてこの動悸が反行形であらわれ(第171小節~)、主要主題の動機が繰り返される中、ロ短調で楽曲を閉じる。

こうした1つの主題の動機から他の動機や主題を編み上げてゆく作曲技法は、シェーンベルクのいうところの「発展的変奏」とおおいに関係があるとみてよいだろう。シェーンベルクはこの用語をブラームスの作品に対して用いたが、シェーンベルクのもとでベルクが学んだことは、まさにこのような動機操作の技法だったのかもしれない。

執筆者: 岡田 安樹浩

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