ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 Op.10-3
Beethoven, Ludwig van : Sonate für Klavier Nr.7 D-Dur Op.10-3
作品概要
作曲年:1797年
出版年:1798年
初出版社:Eder
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:23分30秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (2)
解説/演奏のヒント : 菊地 裕介
(1213 文字)
更新日:2020年4月1日
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解説/演奏のヒント : 菊地 裕介 (1213 文字)
第1楽章
ベートーヴェン自身が「ある精神病患者」を描いていると語ったという伝説をもつソナタ。冒頭はpで奏される(このソナタのすべての楽章の冒頭はpである)冒頭の第一主題は4つの音の順次下降(d-cis-h-a)による動機aと、反転して上行する3つの音(cis-d-fis)が構成する動機bという2つの要素より構成される。この2つの短い動機がこのソナタの4つの楽章において、これ以上ないほどに徹底して展開されている。第1楽章においても、その第二主題および小コーダ含め、楽章の大部分がこの前者の動機aより成っている。第1楽章では、これがアウフタクト的に配置され、リズミカルなパルスを演出している。随所にみられるTutti的に強奏される全音符などが見どころ。
第2楽章
ベートーヴェンの初期の作品のうちでも、人間心理のもっとも暗い深淵部を描いたものとして傑出した音楽性を持つ。ここでも動機aと動機bはともに現れるが、第1楽章が主に動機aを展開していたのに対して、この第2楽章では冒頭部より動機bが極めて強い印象を与える。動機bの3つの音に潜む4度音程が、ここでは大きく変容しており(完全4度→減4度)、上昇を拒むこの音程が心理的な強い閉塞感を示唆している。
多くの不協和音、特に減七和音は繰り返しffで強奏され、パニック的に肥大する心の悲鳴を演出している。長いコーダは迷いとともに螺旋状に上昇し、天に助けを乞うが、啓示へは至らず、多くの減音程(減4度、減7度、限3度)が訴える深い絶望とともに再び深淵へ沈没して行く。
第3楽章
第2楽章でついに得られなかった啓示が、この第3楽章の冒頭で、アウフタクトからの束の間の掛留に引き続く長6度の解放的な上行と、続く動機aによってもたらされる。dolceと表記され、ソナタの楽章間の「場」の転換としても、もっとも美しいものの一つである。Menuettoと表記されているが、ベートーヴェンの多くのメヌエット楽章と同様にややアップテンポで奏され、Scherzoとの中間的な性格を持っている。Trioは底抜けに明るい。動機としては、aとbの橋渡しの部分を使用しているが、心に闇を抱えながらも、いっときでも陽気に踊る、きわめてドイツ人的な性格を描いていると言える。
第4楽章
第1楽章では動機a→bの順に提示されたが、ここでは再び動機bが前面にあらわれ、動機b→aの順に提示される。動機bはここで、再び正気を取り戻している(減4度→完全4度)が、なお納得には至ってないようで、繰り返し繰り返し問いかけを続けているが回答は得られない。減七和音の悪夢も、いまだ随所に姿を見せている。この楽章ではソナタにみられたあらゆる要素が回帰し、一定のカタルシスへは至るのだが、このソナタで一貫して描かれた「ある精神病患者」は、その病魔を克服したのではなく、それとの共存を受容したのであろうと感じさせるような暗示に満ちて、曲を閉じる。
解説 : 齊藤 紀子
(631 文字)
更新日:2007年5月1日
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解説 : 齊藤 紀子 (631 文字)
ブロウネ伯爵夫人アンナ・マルガレーテに捧げられた3つのソナタ(作品10)の最後に位置する。
第1楽章はプレスト、ニ長調の2分の2拍子でソナタ形式による。ニ長調の第1主題とイ長調の第2主題との間に、ロ短調のはっきりとした中間主題をおいている。この中間主題は、再現部でホ短調で再現される。また、第1楽章がプレストによるソナタは、この他には第25番作品79のト長調のソナタにしかみられない。
第2楽章はラルゴ・エ・メスト、ニ短調の8分の6拍子で、展開部にまったく新しい主題が現われる変則的なソナタ形式による。また、再現部では第1主題も第2主題も縮小された形で再現される。
第3楽章はメヌエット、アレグロ、ニ長調の4分の3拍子で、3部形式による。主部の優雅なメヌエットは、左手の跳躍音型が特徴的なトリオと対照を成す。
終楽章はロンド、アレグロ、ニ長調の4分の4拍子で、副主題を2つ持つロンド形式による。1つ目の副主題が、主調と同じニ長調によりながら、主要主題とは異なる雰囲気を醸し出していることは興味深い。この副主題は、第1楽章の第1主題に通じるものが感じられる。
このように、一見するとソナタ形式、緩徐楽章、メヌエット、ロンドというソナタとして伝統的な構成を持つように思われるが、その中でベートーヴェンは様々な試みを行っていることがうかがえる。また、ソナタ全体としては、第2楽章にみられる減7の和音や半音階の多用が、他の楽章に比べ、深みのある悲哀のような雰囲気を醸し出している。
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