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リスト:巡礼の年 第1年「スイス」

Liszt, Franz:Années de pèlerinage première année "Suisse" S.160/R.10

作品概要

作曲年:1848年 
出版年:1855年 
初出版社:Schott
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:51分00秒

解説 (7)

執筆者 : 伊藤 萌子 (2282文字)

更新日:2009年8月1日
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《巡礼の年》(《巡礼の年報》とも訳される)は《第1年》、《第2年》、《第2年補巻》、《第3年》の4集から成るピアノ独奏曲集である。リストが二十代から六十代にかけて作曲した作品が集められており、リストの驚異的なピアニズムと絵画的な表現に対する天賦の才能が見られる。

《巡礼の年 第1年スイス》は、1835年から36年にかけて、マリー・ダグー伯爵夫人とふたりで旅したスイスでの印象をもとに作曲されている。

《第1年スイス》は当初、《旅人のアルバム》(三部・全十九曲から成り、さまざまな曲名で出版されるなど複雑な成立過程を持つ作品)として、1836年から1842年の間に何度か出版されたものである(最終的には1842年10月に、ウィーンのハスリンガー社から三部まとめて出版された)。リスト自身は《旅人のアルバム》について、「もっとも強い感動、もっとも鮮明な印象を音で表現した」と述べている。

今日よく知られている《巡礼の年 第1年スイス》は、その《旅人のアルバム》第一部の五曲と第二部の二曲を改訂し、新たに二曲を追加した、全九曲の作品集である。ヴァイマル宮廷楽長時代の1855年にショット社から出版された。第6番「オーベルマンの谷」 / "Vallee d'Obermann"のように文学作品と結びついたものもあるが、スイスの自然や民謡と密接な関係にある曲が大半を占めている。

第1番「ウィリアム・テルの聖堂」 / "La chapelle de Guillaume Tell"

スイスの独立に関わったとされる英雄ウィリアム・テルを描いている。重々しく荘重なフレーズから始まり、勝利に向かうウィリアム・テルの様子が示される。楽曲の最後では再び冒頭のフレーズが感動的に再現される。

第2番「ワレンシュタットの湖で」 / "Au lac de Wallenstadt"

タイトルはバイロンの『チャイルド・ハロルドの巡遊』より。魅力的な牧歌風の曲。

左手の伴奏は船の艪を動かす様子をあらわし、優美で静寂を帯びた旋律が付けられている。

第3番「牧歌」(パストラール) / "Pastorale"

パストラールとは牧歌的情景を描くか、その雰囲気を表現した作品のことで、もとはキリスト降誕の場面における羊飼いの笛を模した,イタリア起源の器楽曲。穏やかな12/8(6/8)拍子,平行3度,持続低音,対照的フレーズなどを特徴とする。本作品においても、穏やかな旋律と持続低音の印象的なテーマと、繰り返される短くリズミカルなテーマと対照的なテーマとが登場する。終結部では、完全終止せずに次の曲へと続いている。

第4番「泉のほとりで」 / "Au bord d'une source"

タイトルはドイツの詩人シラーの詩『追放者』より。魅力的な牧歌風の曲で、そのタイトルが示すように瑞々しさに溢れる。《スイス 第一年》の中で最もよく知られており、本作品のみを取り出して演奏することも多い。後の《エステ荘の噴水》につながる傑作とされる。

第5番「夕立」 / "Orage"

タイトルはバイロンの『チャイルド・ハロルドの巡遊』より。山の嵐を絵画的に描写している。1855年、ヴァイマル宮廷楽長時代に新たに作られたもので、曲集中でも際立って技巧的な作品である。

第6番「オーベルマンの谷」 / "Vallee d'Obermann"

タイトルはセナンクールの『オーベルマン』より。『オーベルマン』は、主人公オーベルマンから友への書簡という形式を用いて書かれており、主人公の精神の遍歴を描いている。曲においても主人公の経験が見事に表現されている。曲集中、最も演奏時間が長い(約14~15分程度)。冒頭の主題の変容から全体が構成されている。主題変容の技法は、彼の革新的な和声法とともにリスト独自の様式を形作っている。

第7番「牧歌」(エグローグ) / "Eglogue"

タイトルはバイロンの『チャイルド・ハロルドの巡遊』より。

エグローグとは田園的、牧歌的作品を指す語で、本来は対話形式の文学作品にしばしば適用されてきた。19世紀になると主にピアノ作品に用いられるようになった。初めて用いたのはトマーシェク(1774-1850、ボヘミアの作曲家)で、彼は1807年より7つのエクローグ曲集を出版している。その大半は二部形式の穏やかな曲である。

リストの本作品はスイスの羊飼いの歌をもとにして作られている。第五番と同様新たに追加されたと考えられているが、今日では、既に1836年に作曲されていたとする説が有力である。

第8番「郷愁」 / "Le mal du pays"

タイトルはフランスの作家セナンクールの『オーベルマン』より。その中の一節で、主人公オーベルマンがパリから友人に書いた「自分の唯一の死に場所こそアルプスである」というアルプスへの郷愁を曲にしたものと言われている。極めて簡素で民族風の雰囲気のある曲である。

第9番「ジュネーヴの鐘」 / "Les cloches de Geneve"

タイトルはバイロンの『チャイルド・ハロルドの巡遊』より取られており、《旅人のアルバム》の初期稿では「私は自らのなかに生きるのではなく、私を包み込んでくれるものの一部になる」という、同じくバイロンの言葉が書かれている。この初期稿は1835年12月に生まれた、リストとマリー・ダグー伯爵夫人の子、ブランディーヌに捧げられた(ブランディーヌはリストが「ムシュ」と呼び、かわいがった娘である)。その穏やかで安らかな心情がかいま見えるような曲調となっている。

執筆者: 伊藤 萌子

演奏のヒント : 大井 和郎 (1583文字)

更新日:2015年11月12日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1181文字)

更新日:2015年11月12日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1271文字)

更新日:2015年11月12日
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更新日:2015年12月4日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1033文字)

更新日:2015年12月4日
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演奏のヒント : 大井 和郎 (1148文字)

更新日:2015年12月4日
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