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リスト :巡礼の年 第1年「スイス」 「ウィリアム・テルの聖堂」 S.160/R.10-1 A159

Liszt, Franz:Années de pèlerinage première année "Suisse" "La chapelle de Guillaume Tell" S.160/R.10-1

作品概要

楽曲ID:23715
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:6分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

演奏のヒント : 大井 和郎 (1566文字)

更新日:2018年3月12日
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1.「ウィリアム・テルの聖堂」

リストとショパンを比べた時、その違いは無数に挙げられますが、決定的に異なる要素の1つとして、リストにはショパンにはない「威厳」があります。そしてそれは時にヒロイックであります。この曲も、そのようなヒロイック的な威厳を持って、感じて演奏します。

ところで重要なことから順番にお話します。まず知らなければならない事はリストのテンポ表示です。この曲はLentoと書いてあるので、ゆっくり演奏する事はするのですが、問題は程度です。一人の作曲家の多くの作品を弾いていると、その作曲家の「癖」というのがわかってきます。その作曲家の「癖」を知る事は、曲の理解につながる重要な情報です。フランツリストがLentoと表示した時、鵜呑みにしてしまうと時に大変なことになります。この巡礼の年第1年に書かれてある、「オーベルマンの谷」はLento assaiという表示です。それで4分の4拍子です。これを鵜呑みして、ゆっくり演奏した時、明らかなる不条理が起こります。

メトロノームなどに書かれてあるLentoという速度は一切無視してください。察するにリストがLentoと表示した時、急がずにゆったりと進むと解釈して良いと思います。ただし誤解しないで欲しいのは、リストがLentoと表示した時、速くということではありません。状況状況に応じて臨機応変に対応してください。中には本当にゆっくり弾かなければならないLentoもあります。

この曲はしかしながら、あまりにもゆっくり過ぎると色々な問題が起こってきます。ピアノという楽器は、他の、音を伸ばし続けることのできる楽器や歌とは異なり、アタック音が最初に来て、あとは音が衰退するのみです。そのままの音量を伸ばし続ける事も出来ませんしビブラートもかけられません。そのような、大変非音楽的な楽器を音楽的に聴かせるためには様々な工夫が必要となります。

仮に、この曲をものすごくゆっくり演奏したとします。例を見てみましょう。4小節目をご覧ください。1つの和音が2拍分伸びていて、3拍目に次の和音が待っています。旋律はE-Cですから、本来、シェーピングを行う時、CはEよりも理に叶うように音量を落とすと、スムーズなラインが出来上がります。詳しく説明しますと、最初のEの音量を耳で聴いて、その音量が「なくなる分量に合わせて」次の和音を弾きます。そうすることで、メロディーラインのシェーピングができるのですが、もしもこれが極端に遅いテンポだった時、1拍目で弾かれてしまったEは、長い時間をかけて次のCを待たなければなりません。そうすると、本来はそのCは、かなり弱い音で弾かないと、前の和音の余韻と合わせることができなくなります。

それを避けて、お構いなしにCを、表示通りにフォルテシモで弾くと、2つの和音にはかなりの時間がありますので、ただ単にフォルテシモで和音を2つ弾いただけという、非音楽的な演奏になってしまいます。故に、リストのテンポマーキングには十分注意をしてください。

もう一つの注意点は、61小節目のlargamenteです。ここも、ここからテンポチェンジではありません。60小節目にritが書いてありますが、結局 a tempoは見つかりません。ここは60小節目以前のテンポより少し落ちるくらいです。そして横に流れなければなりません。その為には、6連符はできる限り小さく弾きます。これがうるさくなってしまうと硬く聴こえます。それ以前に、音楽的に感情を理解しようとした時、それまでの興奮状態から一気に冷めてしまうのは不自然です。人間の感情とは瞬間的に冷めるものではありません。この部分はまだフォルテで、前の部分の続きです。テンポもダイナミックも変わりません。本当に冷静になるのは、75小節目です。

執筆者: 大井 和郎

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