作品概要
作曲年:1725年
出版年:1843年
初出版社:Peters
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:前奏曲
総演奏時間:5分10秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (2)
執筆者 : 朝山 奈津子
(1605 文字)
更新日:2008年6月1日
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執筆者 : 朝山 奈津子 (1605 文字)
バッハは《平均律クラヴィーア曲集》、《インヴェンション》、《シンフォニア》など、内容も曲数もひじょうに豊かな学習教材を制作している。それらは当初から明確かつ綿密な計画を持って進められていたが、その際にはいくつかの候補の中からそれぞれの主旨に合わせて選択したり、移調や改訂を加えたりすることがあった。従って一方では、曲集に取り込まれずに残された作品や異なる調の原曲とおぼしきもの、簡略な初期稿なども多数存在する。9つ、6つ、および5つの小前奏曲は、おそらくそうした小品を後生がまとめたもので、やはり学習教材として弟子から弟子へと伝承された。19世紀半ばのペータース社の鍵盤作品集(チェルニー/グリーペンケルル編)によって、曲集のまとめ方が定着、普及したとみられる。
《5つの小前奏曲》は、バッハより一世代若いヨハン・ペーター・ケルナー(1705-1772)の筆写譜によってのみ伝えられる曲群である。ケルナーはバッハの信奉者でバッハ・コレクターだった。数多くの作品を入手しており、コレクションには貴重な資料も含まれている。しかしこの作品群に関しては、ケルナーより他の誰も筆写しておらず、ケルナー自身も作曲者名を書き添えていないことから、真贋問題に決着がついていない。また、以前には《前奏曲》BWV999を加えて「6つの小前奏曲」と呼ばれたこともあったが、第6番に当たるBWV999は原曲がリュートであると見られ、現在では「5つの小前奏曲」とするのが慣習になっている。
第1番 ハ長調 BWV 939
ハ長調のカデンツの分散和音で開始する。どことなく《インヴェンション》や《平均律 第2巻》の第1番プレリュードを思わせる。下属調続和音のb音と、属調属和音のfis音とが織り成すそれぞれの領域が、主調を通じて自然に連結している。最終4小節では、両手に8分音符を配して突然テクスチュアの厚みを増したところで、16分音符の華麗なパッセージワークが入り、8分音符、4分音符とテンポを徐々に落として終始する。こうした作曲上の組み立ては、小品ながらよくできている。
第2番 ニ短調 BWV 940
最初の3小節、両手で主題の完全形が3回提示されたのちは、その素材のみを組み合わせて曲が進む。両手で分担して主題を導こうとするが、主題はどんどん断片化し、最後までとうとう完成されることがない。
第3番 ホ短調 BWV 941
3拍子の舞曲風小品。後半は小節の中心すなわち1.5拍で両手が交代し、このわずかなパートの重なりが陰影を生んでいる。複雑な和声進行や対位法技法は用いられないが、リリシズム溢れる優美な作品である。
第4番 イ短調 BWV942
この作品の独特な響きと雰囲気は、半音階というよりもむしろ、模続進行によってもたらされている。最初の2小節はすでに主調が曖昧で、第3小節以降は二重倚音(複数の声部で同時に倚音、すなわち短2度の装飾非和声音が現れること)のため、ますます到達点がぼかされてゆく。こうした運び方はバッハには珍しく、確たる証拠がなければ真作とはなかなか信じがたい。が、風変わりでゴツゴツした響きが楽しめる小品である。
第5番 ハ長調 BWV943
一転して、バッハのハ長調の典型を示す作品。《シンフォニア》第1番や《平均律 第1巻》第1番のフーガに似る。先の4曲と比べると3倍以上長いため、調推移にも工夫が見られる。属調で開始する中間部(第16小節)からの4小節は、属調(ト長調)とその属調(ニ長調)の同主短調(ニ短調)が並び、第21小節で長三和音に終始することでニ長調へ転じる。第29小節で中間部前半が属調に終止、以降は下属調和音をときおり引き込みながら主調へと向かう。この2つの中間部に、シャープ系の鋭い明るさとフラット系の朗らかな暖かみがよく対比されている。ピアノ、チェンバロは無論のこと、オルガンでも美しく響く佳作である。
演奏のヒント : 秋山 徹也
(1556 文字)
更新日:2018年3月12日
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演奏のヒント : 秋山 徹也 (1556 文字)
小プレリュード BWV941 ホ短調 ■主題提示的な部分・経過的なゼクエンツ・展開部分が複合された作品 主題提示的な部分・経過的なゼクエンツ・展開部分が複合される作品である。1小節~2小節の上声の動きが主たる素材(主題)として機能しており、それに和音を支える音が組み合わさる動きが基調となっている。時々主題が、上下声部で交替したり、上下声部で重ねられたり、2度ズレて反復したり、転調を伴って反復したりして曲が繰り広げられている。 ■1~2小節上声が主題 他の2声で和音を支えるバランスを 主題が上下声部で交替する時は、上下声部でのバランス交替をきちんと表現するとよい 1~2小節上声の旋律を主題と考え、曲の一番重要な旋律と考えて表現するのが基本であろう。ただし各小節ともに和音の響きがわかるように対旋律も心を入れて表現したい。1~2小節上声の主題は、3~4小節では下声に現れる。その際、和音を支える音(対旋律)も、1~2小節では下声・3~4小節では上声に、交替して現れる。1~2小節の上声と下声のバランスは、3~4小節の下声と上声のバランスとちょうど入れ替わるように表現したい。5小節以降も同様に、主題と和音を支える声部のバランスを常に一定に表現して、対位法的なバランスを統一するとよい。 ■主題提示的な部分では、しっかり心をこめて、かつ必要以上にゆらさない表現が基本 1~4小節は、主題が提示される部分である。曲全体からみると、この曲の主題をしっかりと表す部分となる。したがって、十分に心をこめてしっかりと、しかし、必要以上にゆらさない「提示的な」表現が基本となろう。 ■経過的なゼクエンツ部分では、クライマックスにならないように、ゼクエンツごとに変化させるとよい 5(4)~7小節の上段や17~18小節は、2度ズレて動くゼクエンツ(反復)である。このような部分は、基本的には経過的な部分となりやすい。そのため、曲全体からみた時クライマックスとなるような表現は避けつつ、ゼクエンツごとに表現を変えて演奏するとよい。例えば5小節と6小節とでは、6小節の方が2度高くかつ短調から長調への場面転換する部分なので、6小節の方を5小節より少し明るく表現するとよいであろう。また17小節と18小節では、18小節の方が2度低くかつ曲最後のホ短調部分へ場面転換してゆく部分なので、18小節の方を17小節より少し楽に表現するとよいであろう。 ■展開部分では、しっかりとクライマックスを作り、終止感を表現するとよい 8~10小節、16小節、19~22小節では、展開的な要素がみられる部分である。主題が変化したり、8分音符の動きが変化したり重ね合わせられたりして、最後に終止する部分となっている。特に20~21小節では主題の重ね合わせや3連符との組み合わせなどがみられる。このような部分では、しっかりとクライマックスを作って最後にしっかりと終止感をあらわすフレーズを作れるとよい。 ■転調を伴うゼクエンツはあまり経過的に表現しないでしっかり表現を 12~15小節はゼクエンツともいえるが、2度ずれゼクエンツではなく、2小節単位で上下声部が交替している上に、(直前のト長調の)V度調のニ長調と、(主調からみて)IV度調のイ短調への転調を伴っているため、全体としては経過的な雰囲気ではなく展開した部分としても考えられる。したがって、この部分はある程度色彩の変化をはっきりと表現し、あまり経過的な表現はしない方がよいと考えられる。 ■ピカルディ終止で安堵感を表現 曲の最後は、ホ長調(この曲の主調であるホ短調の同主調)のⅠ度で終止するピカルディ終止である。それまでの短調の雰囲気を、ここでほっと安堵するように表現するとよい。
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