6楽章:プレリューディウム(アンダンテ)、アルマンド、クーラント、サラバンド、ドゥーブル(アレグロ)、エール(アレグロ)
前奏曲付小組曲である。バッハの創作史の中では、おそらくきわめて初期に成立したもので、年代は特定できないがヴァイマール着任以前とみられる。《メラー手稿譜》所収(資料については《フーガ イ長調 BWV949》参照)。ラテン語とイタリア語を合わせたタイトルがバッハの作品としては珍しく、様式の上からも偽作との疑いがかけられた。が、バッハの長兄、オルードルーフのヨハン・クリストフが筆写していることから、現在ではヨハン・ゼバスティアンの真作とみなされている。とはいえ、この「第3旋法の」という言葉が何を指しているのかはよく判らない。旋法の概念と実態は古代から17世紀に至るまで多様なあり方を示すが、どの時代のどの理論書をとっても、第3旋法はヘ長調とは似ても似つかないからだ。また、バッハの書いたこの組曲は明らかに調性による音楽であり、旋法の響きは感じられない。
プレリューディウムは2分の3拍子、古い様式を志向する拍子で書かれている。3声の近接模倣ですすむ。単純な作りだが、後半は主題の反行形を思わせる動機も現れる。
アルマンドは、バッハのこの種の曲としては珍しく、同音反復を主題とする。この動機のせいか、せわしない印象をうけやすいので、あまり速くならないようテンポに注意せねばならない。
クーラントは3拍子を装っているが、実際は2小節でひとまとまりをなしており、4分の6拍子、すなわち複合2拍子で進む。冒頭の小節は明らかにアルマンドからの続きを意識したもの。また、同じ音をアウフタクトに3度打ち鳴らす動機がすぐに聞こえ始める。
サラバンドはバッハの後年の組曲にはほとんど見られないような、一種の軽快さを示している。舞曲のリズムは本来、3拍子の2拍目に来るはずだが、サラバンド本体にも、ドゥーブルにもこの特徴はみられない。しかし、これらを速いテンポで弾くのは誤りであって、ドゥーブルの「アレグロ」とはせいぜい、もたつかぬように注意を促す標語と解釈すべきだろう。
組曲はエールで締めくくられる。これは舞曲ではなく、フランス語で「歌」、すなわちイタリア語の「アリア」に相当する言葉である。が、エールとアリアをバッハは厳密に区別していたようだ。この曲は8小節の回帰主題と自由な展開部分が交互に現れ、フランスのロンドーの形式になっている。また、最後はイタリア語で「ダル・セーニョ」の指示があるが、これはイタリアのアリアに典型であるところのダ・カーポ形式を完成させるのでなく、回帰主題を再現するためのものである。なお、回帰主題では、主題はバス声部に置かれている。