このトッカータは、バッハが明るく力強い印象を与えるG-durで書かれていて、極めて楽天的なトッカータです。他のトッカータとは少し異なり、このトッカータは割とテンポを崩さず、メトロノームに近い正確なテンポを与えることで魅力が増します。それでは見ていきましょう。
1~56小節間
1~2小節間を見るだけでもバッハのユーモラスな側面が見えますね。2拍毎に同じ音を書いています。そしてこの小節間は、明らかにコンチェルトを意識した書き方で、小編成の楽器と多くの楽器が交互に掛け合います。多くの楽器が鳴るところは、3小節目3拍目裏拍より5小節目1拍目表拍までの連続して、順次進行で下行している3和音です。そしてこの後にすぐ、小編成の楽器、あるいはソロの楽器が始まります。これら、大編成の楽器と小編成の楽器のペアが基本となり、次々と形や調を変えて進んでいきます。急激なダイナミックの差が必要になります。
例えば、大編成の楽器や小編成の楽器のセクションの中をシェープするのではなく、大編成と小編成のダイナミックの差を付けるだけでも大丈夫です。むしろその方が、オーケストラ感が出てきます。つまり、例えば、順次進行で下行している和音をディミヌエンドする必要は全くなく、そこは全体をとにかく大きく弾き、その編成の部分と異なった編成の部分の差を付けるようにするという意味です。
この大編成の楽器の調性は:3小節目G-dur 10小節目D-dur 21小節目e-moll 32小節目h-moll 51小節目G-dur になります。奏者は、演奏が平坦にならないように、どの調がテンションが高く、どの調が柔らかく、どの調がおとなしく、等、色々考えて強弱を決定しましょう。
39~48小節間、同じ音形が続きますね。ここでもダイナミックを変えなければなりません。
57~80小節間 Adagio
このアダージオのテーマは最初には出てきません。61小節目にてようやく出てきます。61小節目アルト1拍目から3拍目表拍までの、E G Fis E D になります。この音形を探してみて下さい。
61小節目以降、ほぼ全ての小節に書かれていますね。このテーマを最優先で出してもかまいませんし、ソプラノ最優先でもかまいません。とにかくどこかの声部は他よりも勝っているべきであり、4声体とも同じ音量にならないように気をつけます。78小節目の3拍目は終わりの感じをだしてもかまいません。その先の79~80小節間はCODAとして下さい。
81~177小節間 Allegro e presto
フーガです。主題は長く、アーフタクト81小節目のDから4小節目2拍目のDまでとします。このテーマは変形ヴァージョンも出てきますが、それもテーマとみなします。このテーマはテーマの中で転調します。下記に書かれた調は始まりの調を書いています。一応解説します。
81小節目 ソプラノ G-dur
84小節目 アルト D-dur
88小節目 バス G-dur
99小節目 ソプラノ G-dur
114小節目 ソプラノ e-moll
117小節目 アルト h-moll
118小節目 バス h-moll (ストレッタ)
123小節目 ソプラノ G-dur
126小節目 バス D-dur
135小節目 アルト D-dur
142小節目 バス a-moll
154小節目 ソプラノ G-dur
158小節目 バス G-dur
164小節目 ソプラノ G-dur
これに伴い、数多くの「テーマの断片」が出てきます。多くのストレッタもあります。
バッハの場合、左右の手の距離が遠くなるほど音量は大きくなると考えてほぼ間違いありません。そのような意味では、146~149小節間はかなりテンションが高くなると考えて良いです。
とにかく楽しく、楽天的に、テンポを崩さず、淡々と進んで下さい。