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バッハ : トッカータ ホ短調 BWV 914

Bach, Johann Sebastian : Toccata e-moll BWV 914

作品概要

楽曲ID:403
作曲年:1707年 
出版年:1839年
初出版社:Peters
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:トッカータ
総演奏時間:8分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (2)

執筆者 : 朝山 奈津子 (286 文字)

更新日:2007年7月1日
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導入、アレグロ、クロマティックな走句を披露するアダージョの3セクションによる前半楽章と、長大な主題を持つフーガ楽章から成る。

前半は、トッカータに典型的な走句をもたず、比較的ゆるく控えめな始まり方をする。アレグロでは、冒頭で二つの主題が同時に提示され、明澄なテクスチュアながら二重フーガを展開する。これに半音階的な装飾をもつ華やかなアダージョが続く。

フーガは、真作であるには違いないが、ナポリ音楽院に伝わる古い手稿資料にそっくりの主題を持つフーガがあり、バッハはこれを借用したと見られている。跳躍を繰り返す音型は、複数の弦をまたいで演奏するヴァイオリンの典型的な語法である。

執筆者: 朝山 奈津子

演奏のヒント : 大井 和郎 (2439 文字)

更新日:2023年5月15日
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1~13小節間

冒頭2声から始まり、5小節目まで徐々に上行していきますので、1小節目はpから始まり、徐々にクレシェンドをかけていきます。6小節目に至って3声になります。ここから下行していきますが、9小節目にて4声になります。つまり音楽は厚みを増しますので、下行していっても音量を少しずつ上げていって良いでしょう。パイプオルガンを思い浮かべ、音が低くなるに従って太いパイプが力強く鳴っているイメージで良いと思います。

14~41小節間

フーガの部分です。テーマは14小節目2拍目のアルト、付点4分音符のHから始まります。14小節目の2拍目から16小節目の1拍目表拍の8分音符Gまでとします。これらのテーマを探していき、それらを強調して演奏するとわかりやすい演奏になりますが、このテーマ、変形して現れますので見逃さないように注意します。テーマの出る場所を書いておきます。

1 14小節目2拍目アルト

2 16小節目4拍目ソプラノ

3 23小節目2拍目テノール

4 25小節目1拍目ソプラノ

5 29小節目1拍目テノール

6 33小節目4拍目テノール

7 37小節目2拍目ソプラノ

8 38小節目4拍目テノール

42~70小節間 Adagio

レチタティーボの部分です。このセクションのテーマを、1小節目1拍目から4拍目のバスEまでとします。そう仮定すると、このセクションでは、このテーマが9回出てきます。それぞれ調が異なります。奏者はそれぞれの調を意識し、雰囲気を変えて下さい。即興的な部分でもありますので、筆者であれば、パッセージの形によってはテンポを速めたり、遅くしたり、自由に弾くと思います。例えば、60小節目4拍目から始まる32分音符のパッセージは、61小節目の4拍目、表拍のGisまで一気に弾くと思います。

また、一見コンスタントに書かれてあるリズムでも、時によってはテンポを変化させると思います。例えば、63小節目3拍目から始まるパターンは、66小節目まで続きますが、その間、多少のテンポの変化(ルバート的な変化)を付けると思います。

このセクションのテーマを書いておきます。

42小節目 1拍目 e-moll

44小節目 1拍目 a-moll

48小節目 2拍目 E-dur

51小節目 1拍目 e-moll

54小節目 4拍目 G-dur

59小節目 2拍目 D-dur

63小節目 1拍目(変形)a-moll

67小節目 1拍目(変形)e-moll

69小節目 3拍目(変形)E-dur

71~142小節間 Fuga

最後のフーガのセクションです。

まず始めにテーマを書いておきます。

71小節目 1拍目 e-moll

75小節目 1拍目 h-moll

80小節目 1拍目 e-moll

87小節目 1拍目 h-mol

96小節目 3拍目 e-moll

101小節目 1拍目 h-moll

111小節目 3拍目 h-moll

125小節目 1拍目 e-moll

133小節目 1拍目 e-moll

もうお気づきと思いますが、通常、あっちこっちの近親調に転調するバッハの曲とは異なり、このフーガはe-mollとh-mollを行ったり来たりするだけです。途中、テーマが出てこない部分で一瞬だけG-durに転調しますが、あとは、ハーモニックシークエンスで次々と調性が変化して、どこかに行くような予感もしてしまうのですが、結局は、e-mollかh-mollに留まります。

このスタイルのフーガにはバッハの拘るテンションの高さを感じることも出来ます。しかし今までのように、何調のテーマは強い、あるいは弱い、と言ったような変化を起こすことはできず、故に、限られた中での変化を付ける作業になります。全部のテーマが同じ強弱では平坦な演奏になってしまうので、テーマ毎に強弱を付けていくのですが、主観的な作業ですので、最終的には奏者に委ねられます。奏者はテーマのみならず、前後の状況も踏まえ、全体を大きく見て判断して下さい。

以下は筆者の主観的な強弱のたった1つの例に過ぎません。「参考にする」程度にしておいて下さい。

71小節目、1声から始まりますので音量は弱く始めます。しかし、このフーガは全体がとてもテンションが高いので、p であっても、緊張感のある p で弾いて下さい。 75小節目、いきなりh-mollに転調します。このテーマはきらびやかに弾いて良いと思います。

80小節目、バスが加わり、3声になります。今までで(フーガの中で)最も音量的に強い部分になります。87小節目、今度はバスのテーマがh-mollになります。このテーマは他と比べていかがでしょうか?このテーマが終わったあとの音形を観ますと、93~94小節間で16分音符のみが2声で進行します。この辺の感じ方は人それぞれとは思いますが、筆者であればしばらくp を保つと思います。故に、96小節目のテーマもそこまで大きくはしません。

101小節目のテーマはh-mollですが、ここで少しだけ音量を上げます。109小節目からは上行形シークエンスでテンションがぐっと高まりますね。故に111小節目のテーマはもう少しだけ音量を上げます。でもまだまだセーブします。

125小節目のテーマで、新たな音形が別声部に加わります。126小節目のソプラノの、Fis E Fis E Fis E Fis E Fisという音形です。127小節目も同じです。ここでもまだセーブをして、いよいよダイナミックを上げていくのは、128小節目からの上行形シークエンスです。130小節目は遠慮をせずにクレシェンドをかけ、テンションを更に上げます。132小節目、下行してもそのままテンションを下げないで、133小節目、最後のテーマです、ここでもテンションは下げず、136小節目3拍目で一度音量を下げ、そして再び上げていきます。ソプラノの音形、EHDisHEHDisH を使ってクレシェンドして下さい。あとは最後の小節までフォルテを保ちます。

執筆者: 大井 和郎

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