作品概要
解説 (4)
執筆者 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部
(894 文字)
更新日:2010年1月1日
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執筆者 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部 (894 文字)
ブラームス最晩年の作品の一つ。初期・中期の、オーケストラをそのままピアノに移したような雄大な曲想のソナタ・変奏曲を数々書いた後、1871年の「8つの小品 作品76」から「4つの小品 作品119」まで5つの小品集を書いている。ここでブラームスは、かつて多くの歌曲の中で見せた独特の和声調和や詩的内容の凝縮を再び試みた。ここで表現される感情の変化はもはや過ぎ去った過去の物であり、かつての若かった自分を懐かしむような穏やかな哀愁に満ちた旋律が心に深く残る作品である。その中でもこの作品118は最も演奏されることの多い作品だろう。
第1番「間奏曲」イ短調:上下に動く分散和音によって醸し出されるブラームス特有の音域の広い和声が非常に美しい。調性はイ短調だがへ調ドミナントではじまり最後はイ長調で終わり第2番への余韻を残す。
第2番「間奏曲」イ長調:この作品のなかでも特に単独で演奏されることが多い。懐かしさを感じさせる第1部では、同じモチーフの旋律が何度も確かめるように様々な和声進行で表れ、中間部では「かつての」思いが短調でメランコリックに、そして長調で内面的に奏される。
第3番「バラード」ト短調:前曲とは異なり力強い和音による情熱的な曲。中間部では一見つながりの薄いロ長調に移るが、ここで年老いたブラームスが表現したかったものは何だろうか。
第4番「間奏曲」へ短調:調性はへ短調に移るが、やはりここでも「かつての」激情だろう。左右交互に現れる三連符が落ち着かない印象を与える。一変して中間部では極めてシンプルな和声進行だけである。
第5番「ロマンス」へ長調:ブラームスは標題への意識は少なかったと思われるが、このタイトル「ロマンス」はこの曲の甘い曲想には誠に的を得ている。中間部の流れるような旋律は若い日の回想だろうか。
第6番「間奏曲」変ホ短調:迫り来る何かに対する不安さを切実に感じさせる暗い曲想で、主調をなかなか確立させない。中間部ではかつてのソナタなどの大作を思い起こさせる重厚な和音とオクターブを多用した、堂々とした雰囲気を醸し出すが長くは続かず、最後は疲れ果てたように静けさの中で終わる。
楽曲分析 : 屋野 晴香
(1247 文字)
更新日:2014年3月20日
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楽曲分析 : 屋野 晴香 (1247 文字)
1. Intermezzo イ短調
冒頭の交差する2つのモチーフ(オクターブで歌われるc - b - a - eと、上行するアルペジオ)がテーマ。冒頭では下行するオクターブのモチーフが、第11小節からは上行形で現れる。第23小節に現れるテーマがこの曲のクライマックスとなり、第31小節からテーマのアルペジオが減七の和音で示された後、第2曲に繋がるイ長調の和音のクリスタルな響きで締めくくられる。
2. Intermezzo イ長調
3つの部分から成るリート形式で、A(1~48小節)B(49~76小節)A(77~116)と大きく分けることができ、さらにB部分も嬰ヘ短調の動きを伴ったa(49~56)、嬰へ長調に転調しコラールの要素を持つ b (57~64)、再び嬰ヘ短調に戻りespressivoで歌い上げる a(65~76) に分けることができる。
3. Ballade ト短調
第3曲も3部分から成るリート形式と言え、A(1~40)B(41~72)A(73~117)に分けられる。Allegro energicoのト短調のA部はブラームスが愛したハンガリー舞曲を連想させる。ト長調を経てB部はロ長調に転調し、跳躍的なA部に対してB部は揺れるように進み、全く異なった性格を持つ。
4. Intermezzo ヘ短調
第4曲も3部分に分けられるが、pながらもagitatoの性格を持つA(1~51)、変イ長調に転調し、遠くで鳴る鐘を聴くようなppの和音を聴かせるB(52~91)、Bのモチーフを残しながら突然アグレッシブな性格へと移り(92~99)、そのエネルギーを持ってAのモチーフを示したのち、第5曲を先取りするヘ長調の柔らかい響きで幕を閉じる。
5. Romanze ヘ長調
冒頭のソプラノに示される2度下行のテーマが4回繰り返されるA部(1~16)、ニ長調に転調し、4小節の1フレーズが少しずつ変奏されながら繰り返されるB部(17~47)、そして冒頭のテーマとpiù espressivoのクライマックスで閉じられるA部(48~57)から成る。
6. Intermezzo 変ホ短調
冒頭のテーマの4音(ges - f - ges - es)の進行は、グレゴリオ聖歌の「怒りの日(Dies Irea)」を連想させ、不安や恐れを感じる第3~4小節にかけてのバスの減七和音のアルペジオは、第1曲Intermezzo の第31~34小節を思い出させる。
第41小節から変ト長調に転調し、曲の流れは息の長いレガートから、第3曲Balladeの冒頭を思い出させる和音の跳躍がsotto voceで奏でられる。このモチーフは勢いを得て第53小節から冒頭の4音のテーマを叫ぶ。第63小節には冒頭の静寂に戻り、第67小節から変ハ長調の響きで一筋の光を与えるが、第83小節のsffの変ホ短調の和音で力尽き、lentoで息絶える。
6つの小品全体の調性に注目すると、A-G-F-Esと長2度ずつ主音が下降するようにまとめられている。
成立背景 : 屋野 晴香
(865 文字)
更新日:2014年3月20日
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成立背景 : 屋野 晴香 (865 文字)
総説でも述べたように、Op.118を含めた晩年の4つのピアノのための小品集は交響曲、協奏曲、室内楽作品に取り組んだ後に書かれている。なぜブラームスが突然ピアノのために、小品を連続的に書いたか。そのきっかけと推測できる出来事のひとつは、親しい友人の死である。
1892年1月、ブラームスは自身のピアノの弟子でもあった、エリザベート・フォン・ヘルツォーゲンベルクを亡くし、非常に落胆してしまう。エリザベートと夫のハインリヒ・ヘルツォーゲンベルク夫妻、そしてブラームスとの間でやりとりされた書簡からは、親密な関係であったことが窺い知れる。また同年3月、夫のハインリッヒはブラームスに宛てて妻が作曲した8つのピアノのための小品を送っている。
この年の夏、ブラームスは避暑地バート・イシュルでOp.116と117を作曲し、1893年の夏に同地でOp.118と119を作曲した。
著名な音楽評論家ハンスリックは6つの小品を「ピアノを介したモノローグ」(独:“Monologe am Klavier“)と表現し、出版社のジムロック社もブラームスに対して、Op.118と119をまとめて「モノローグ」というタイトルで出版してはどうかと打診しているが、ブラームスは「モノローグ」という言葉自体は悪くはないと考えたようではあるが、それを断っている(ブラームス書簡より)。
また、なるべく内容や雰囲気が言葉(タイトル)によって固定されてしまわないようにとのこだわりがあった様子で、例えばOp.118第3番バラードは狂詩曲的雰囲気を持っているが、Op.79にすでに使われたこの「狂詩曲」という言葉が気に入っておらず、「バラード」という言葉を採用したようだ。
6つの個々の曲目には「間奏曲」「バラード」「ロマンス」、そして全体はただ6 Klavierstücke「6つの小品」と名付けてられている。ブラームスはタイトルに具体性を持たせなかったが、それによって演奏者、聴衆自身が楽曲を通した内的な自己との対話(モノローグ)を可能にさせていると言えるのではないだろうか。
総説 : 屋野 晴香
(582 文字)
更新日:2018年2月21日
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総説 : 屋野 晴香 (582 文字)
ブラームスが晩年に作曲した4つのピアノ小品集 (Op.116~119)のひとつ。Op.116及び117は1892年、Op118及び119は翌年1893年、それぞれ夏にオーストリアの避暑地バート・イシュル滞在中に作曲された。6つの小品Op.118の中でも、第2曲Intermezzoは、今日最も演奏される機会の多いブラームスのピアノソロ作品に数えられるだろう。
今日のブラームスの晩年のピアノ小品集への評価からすると、驚くべきことであるが、Op.116~119のピアノ小品集は、作曲された当時の周りの評価は高かったとは言えないようだ。
例えばブラームスの親友、テオードール・ビルロート(Theodor Billroth)の書簡には「ブラームスは交響曲や室内楽など大きな作品を書くべきで、このようなピアノの冗談(独:Scherz)は書くのをよしたほうがいい」との旨が記されている。
ブラームスは2つのラプソディー(Op. 79、1879年)を作曲した後、この一連のピアノ小品集までに、ピアノ・ソロの作品を発表していない。その間、ブラームスはピアノ協奏曲第2番Op.83、交響曲第4番Op.98、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲Op.102、ヴァイオリン・ソナタ第2番Op.100、第3番Op.108、クラリネット五重奏Op.115等、交響曲や室内楽で傑作を残している。
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