総説
本ソナタには、冒頭2楽章の自筆譜が遺されている。この自筆譜には、「ソナタ(Sonate)」というタイトルと「1816年8月」という日付が記され、第2楽章の再現部冒頭で途切れている。
本楽曲は、作曲家の死後に出版された際、5楽章(5曲)構成となった。ライプツィヒで1842年に初めて出版された際、おそらく出版社が第2楽章の再現部を補うと同時に、第3~5曲を他作品から継ぎ足して「5つのピアノ小品集」として出版したのである。5曲構成がシューベルトではなく出版社によると考えられるのは、スケルツォ楽章が2つ存在することに加え、自筆譜が遺された第5曲には、最後の8小節の後に続けてハ長調のアダージョD 349が書かれているためである。したがって作品目録では、初版時の第1・2番は正規の「ピアノ・ソナタD 459」の2楽章として、そして第3~5番は「3つのピアノ小品 D 459A」として区別されている。
各曲解説
第1楽章:アレグロ・モデラート、ホ長調、4分の4拍子
ソナタ形式を取り、前の2つのピアノ・ソナタの冒頭楽章と比べて、提示部が明確に見通せるようになっている。冒頭で第1主題がホ長調で提示され、第20小節で半終止する。この属和音を新たな調の主和音として第2主題が提示され、ロ長調のまま更なる主題が提示される(第33小節)。
シューベルトは後年、提示部の主調領域と属調領域の間に3度調の領域を挟むことによって、提示部を3つの調領域による主題群で構成するようになる(詳細は、ピアノ・ソナタ第21番D 960の解説を参照)。この点から見れば、本ソナタは3つの主題が提示されるという点で、様式発展の過程に位置付けられよう。
前の2作品とは異なり、本ソナタにおいては転調が提示部で極力抑えられ、展開部で積極的に行われるようになっている。展開部(第54~79小節)は、転調のみならず、デュナーミクの点でも起伏に富んでいる。
第80小節では、冒頭主題がイ長調で回帰して再現部となる。下属調による再現は、モーツァルトのピアノ・ソナタハ長調K. 545第1楽章で有名だが、シューベルト自身も、既にピアノ・ソナタ第2番D 279で用いていた手法である。提示部で5度上の調へと至ったように、第2および第3主題はイ長調より5度高い主調で回帰して幕となる。
第2楽章:アレグロ、ホ長調、4分の3拍子
本楽章は一般にスケルツォ楽章と解釈されているが、シューベルトの他のスケルツォ楽章とは以下二つの点で相違している。まず、作曲家は冒頭に「メヌエット」とも「スケルツォ」とも、そして中間部に「トリオ」とも記していない点である。また、シューベルトの舞踏楽章は、主部およびトリオ部でABあるいはABAという形式を取り、主部の半ばと末尾の2ヵ所に反復記号が付くのが定石だが、本楽曲では主部の末尾に反復記号が付されるのみだという点においても、本楽章は他の舞踏楽章と異なる。
本楽章は、単旋律のユニゾンで幕を開ける。ホ長調に始まり、突然のホ短調(第20小節)を経てロ長調に終止すると、ロ長調のまま動きのある伴奏を伴って冒頭旋律が展開される(第26小節~)。そして第50小節では両手のリズムが交換し、新たな旋律が紡ぎ出される。トリオ部と考えられる第102小節以降は、第13小節から始まる主題の後楽節を反復することで、様々な調へと転調を重ねる。そして自筆譜では、トリオの終わりと思われる第142小節で筆が置かれている。
主部の規模が大きいことや、その末尾にのみ終止線が付されていること、さらに第102~142小節が前半の素材による展開部のような性格をもつことに鑑みれば、本楽章全体がソナタ形式を取るとも解釈できよう。