アレグロ・モデラート、ホ長調、4分の4拍子
ソナタ形式を取り、前の2つのピアノ・ソナタの冒頭楽章と比べて、提示部が明確に見通せるようになっている。冒頭で第1主題がホ長調で提示され、第20小節で半終止する。この属和音を新たな調の主和音として第2主題が提示され、ロ長調のまま更なる主題が提示される(第33小節)。
シューベルトは後年、提示部の主調領域と属調領域の間に3度調の領域を挟むことによって、提示部を3つの調領域による主題群で構成するようになる(詳細は、ピアノ・ソナタ第21番D 960の解説を参照)。この点から見れば、本ソナタは3つの主題が提示されるという点で、様式発展の過程に位置付けられよう。
前の2作品とは異なり、本ソナタにおいては転調が提示部で極力抑えられ、展開部で積極的に行われるようになっている。展開部(第54~79小節)は、転調のみならず、デュナーミクの点でも起伏に富んでいる。
第80小節では、冒頭主題がイ長調で回帰して再現部となる。下属調による再現は、モーツァルトのピアノ・ソナタハ長調K. 545第1楽章で有名だが、シューベルト自身も、既にピアノ・ソナタ第2番D 279で用いていた手法である。提示部で5度上の調へと至ったように、第2および第3主題はイ長調より5度高い主調で回帰して幕となる。