総説
1815年9月に作曲された、シューベルトによる2作目のピアノ・ソナタ。自筆譜には「ソナタ第1番(Sonate I)」と記されており、シューベルトが本楽曲を初めての本格的なピアノ・ソナタと捉えていたことが窺える。
自筆譜では第3楽章で終わっているが、シューベルトが第4楽章を作曲したことを想定する見解もある。研究者によって意見が分かれ、ハ長調のアレグレットD 346とハ長調のロンドD 309Aが第4楽章の候補として挙げられている。アレグレットD 346が1816年になってから作曲されたのに対し、ロンドD 309Aは自筆譜に1815年10月16日と記されているため、この点では後者の方に作曲時期の点で整合性がある。しかし、このロンドは冒頭の6小節しか書き記されていない上、それが全て斜線で消されているため、真相は分からない。さらには、シューベルトが双方とも本楽曲のフィナーレとして構想した可能性も考えられる。
各曲解説
第1楽章:アレグロ・モデラート、ハ長調、4分の4拍子
ソナタ形式で書かれている。ピアノ・ソナタ第1番D 157と同様に、提示部の時点で遠隔調へと転調する試みが見て取れる。第1主題はハ長調のユニゾンで堂々と提示され、異なる伴奏テクスチュアを伴って確保されると、イ短調へ転じるかのような半終止(第23小節)を経て、ホ短調を予期させるロ長調の三和音へと行きつく(第37小節)。そこから急にニ長調の三和音へとずらされることにより、第2主題がト長調で提示される(第45小節)。テクスチュアが変わると、変ロ長調や変ホ長調といったフラット系の調性が顔を見せ、同主調であるト短調も見え隠れするが、最後のカデンツでト長調に終止する。
展開部では、ひたすらに転調する和声変化の試みが見られる。嬰ハ短調に始まり、ト短調や変ホ短調を通り、ヘ長調/ヘ短調へと変幻自在に転調する。
第118小節から、下属調のヘ長調で冒頭主題が再現される。再現部を下属調の第1主題で開始し、第2主題で主調に回帰するという構想は、すでにモーツァルトのピアノ・ソナタハ長調K. 545に見られる。本楽章は、ハ長調の大団円で幕となる。
本楽章のヴィルトゥオーゾな書法には、ヨーロッパ中を席巻し、ピアノ音楽を発展させたクレメンティからの影響も見て取れよう。
第2楽章:アンダンテ、ヘ長調、4分の3拍子
ABA’という三部形式を取る。A部内も三部分に分けられ、転調を繰り返す中間部が、8小節の主題に挟まれている。B部(第26~51小節)は対照的な強音のニ短調で幕を開ける。B部は、A部の中間部を特徴づけていた十六分音符のリズムが支配的である。
第52小節で主部が回帰すると、旋律が変奏されて現れる。ここで旋律は、中間部(A部の中間部および曲全体の中間部)を特徴づけていた十六分音符のリズムによって装飾され、冒頭旋律と中間部との一種の統合が成し遂げられている。
第3楽章:メヌエット:アレグロ・ヴィヴァーチェ、イ短調、4分の3拍子
本楽章は、3拍子のメヌエットとも、少し速いテンポで1小節1拍と数えるスケルツォとも取れるテクスチュアで書かれている。
主部はABA’という三部形式を取る。16小節のA部は、8小節の主題提示に始まり、4小節のヘミオラに続いて4小節の半終止によるカデンツという古典的な構造をもつ。B部では、A部をパラフレーズする形で声部交換や転調が行われた後、A部が調的な逸脱を伴って回帰し、主調で閉じる。
強音で歯切れの良い短調の主部とは打って変わって、トリオは同主長調で静かに始まる。主部とトリオ部は対照的な性格をもつが、四分音符による伴奏のみならず、八分音符と四分音符による旋律といった、主部と同じリズム素材を用いて構成されている。
なお、本楽章には別稿が存在する(D 277A)。この自筆譜に作曲日は記されておらず、ヘ長調の別のトリオを持つものの、本楽章の作曲過程であると考えられている。