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ショパン :即興曲 第2番 Op.36 CT44 嬰ヘ長調

Chopin, Frederic:Impromptu no.2 Fis-Dur Op.36 CT44

作品概要

作曲年:1839年 
出版年:1840年 
初出版社:Breitkopf und Härtel
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:即興曲
総演奏時間:5分30秒

解説 (1)

執筆者 : 朝山 奈津子 (1021文字)

更新日:2008年7月1日
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「Impromptu」とはラテン語に由来し、「準備のできていない」ことを意味する。この言葉は1822年に偶然にも二人の作曲家が同時に自作品に用いたのが最初とされる。音楽ジャンルとしての即興曲は、演奏技術としての即興とはあまり関係がない。それは単に、即興風の雰囲気を反映した楽曲という意味であり、19世紀以降の音楽ジャンルである(なお、即興風の音楽というアイデア自体はけっして19世紀固有のものではないが、それ以前には、トッカータ、カプリッチョなど様々な名称で呼ばれた)。

19世紀前半において、即興曲の伝統は大きく2つの流れがあった。ひとつは、流行しているオペラ・アリアの旋律や民謡旋律などを変奏しながら続けるもので、チェルニーカルクブレンナーなどの他、リストにも佳作がある。もうひとつが、特定の形式をもたない抒情的な音楽内容のもので、この言葉を最初に用いたというヴォジーシェク、マルシュナーのほか、シューベルトの即興曲がその代表である。ただし、形式が定まらないといっても、多くはA-B-Aのアーチ型をしている。

ショパンは、シューベルトに連なる伝統を継承し、その創作の中期に《幻想即興曲》および3つの《即興曲》を残した。いずれも明確なアーチ型であり、中間部を「ソステヌートsostenuto」と称する。

第2番の主題旋律は一見するとそれほど「即興的」ではない。リズムの刻みは明確で、A部分には覚えやすく明朗な、Sostenutoには威厳あふれる旋律が用いられている。しかし、第19小節ですでに、主題確保に際に音型の細分化が起こっている。そして、第61小節で主題の再現が始まると、この曲が変奏の伝統を取り入れていることに気づくのである。つかみ所のない左手の伴奏によって全体が攪乱され、右手も後半では三連音符に分割されてしまう。また、この部分はイ短調から嬰ヘ長調へ、ほとんど何の予告もなしに跳んでおり、こうした突然の色あいの変化が変奏の効果として計算されている。第82小節からは、19小節にわたる華麗なパッセージワークが始まるが、これは冒頭第17小節の20連音符を拡大したものと考えられる。しかし、最後の9小節は忠実に再現されており、主題回帰の安心感がひととき生まれる。なお、最後の2つの音をフォルティシモとするのは初版譜に基づく指示である。ショパンのスケッチとイギリスで出版された稿では、第110小節の最終音のみにフォルティシモが付けられている。

執筆者: 朝山 奈津子