この曲の手書きのスコアには、「ソナタ第4番」という書き込みがあり、ブラームスの最初のソナタではない。出版の都合がおもな原因で、作品1となったが、実際は、作品3やソナタや作品4のスケルツォよりあとに作曲されたものである。
第1、2楽章は1852年4月に、3、4楽章は1853年春にそれぞれハンブルクで作曲された。
このソナタは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「ヴァルトシュタイン」と「ハンマークラヴィーア」からの影響が顕著にあらわれている。しかしその一方で、当時流行の表題的な傾向とも無縁ではない。のちのブラームスのピアノ音楽の特徴となる、ダイナミックな動きや広い音域の活用なども認められる。若きブラームスのあふれんばかりの情熱が注ぎ込まれた大作であり、ブラームス自身もこのソナタに自信をもっていたようである。
全曲は第1楽章の第1主題の進行形で統一されている。
第1楽章:アレグロ、ハ長調、四分の四拍子。ソナタ形式。はじめの第一主題は、ベート
ーヴェンの「ハンマークラヴィーア」の冒頭主題と酷似していることが話題になった。
第2楽章:アンダンテ、ハ短調、四分の二拍子。自由な変奏曲の形をとる。「古いドイツのミンネリートによる」と記されていて、楽譜では、主題12小節の旋律にその歌詞がつけられている。ブラームスがのちに編曲した49曲からなる「ドイツ民謡集」の第49曲も、この歌詞をもっている。その歌詞の大意は次の通りである。
独唱:ひそやかに月はのぼる
合唱:青い青い小さな花(月のことをさす)
独唱:しろがねの小雲をぬいつつ天ののぼる
合唱:青い青い小さな花
ばらは谷間に、乙女は広間に
おお世に美しきばらよ
この詩は楽章全体の性格や、音楽の表情を示している。
主題に三つの変奏が続く楽章で、切れ目なく、次の楽章につづく。
第3楽章:アレグロ・モルト・エ・コン・フォーコ、ホ短調、八分の六拍子。スケルツォ、三部形式。この楽章も、次の楽章に切れ目なくつづく。
第4楽章:アレグロ・コン・フォーコ、ハ長調、八分の九拍子。ロンド形式で、A-B-A-C-A-コーダの形をとっている。スコットランドの民謡的な詩人の詩「わが心はハイランド」のドイツ語訳から霊感を受けてこの楽章を書いたといわれている。