第1番 HWV426 イ長調
本曲集は1720年のクルアー版の序文にあるように、アムステルダムのロジェ社と連携してロンドンの出版社ウォルシュが作曲家の許可なしに刊行した組曲の海賊版や、流布していた手稿譜に対抗するため、ヘンデルが旧作を編纂して出版した曲集である。1720年6月に王室から得た英国における出版特権も本曲集の出版のための、ロジェ版への対抗措置と考えられている。
作曲家は出版にあたり、既存の楽章の改訂、新たに書き下ろした楽章の付加ないし元の楽章との差し替えを行い、最終的に4つのタイプの組曲それぞれに互いに対照的な作品を2曲ずつ、計8曲をまとめた。8曲でクラヴサン組曲集を編んだのはパーセルに先例がある。
曲集の両端にはプレリュードと舞曲楽章3つから成る組曲が置かれる。第1番HWV426は全体を通してフランス様式に傾倒している。舞曲楽章の成立年は不詳だが、プレリュードのみ1720年に新たに加筆されたという。本作品のプレリュードは単純な和音のアルペッジョから成り、実質的には拍子に拘束されない、17世紀後半に「プレリュード・ノン・ムジュレ」と呼ばれるようになったタイプをとる。前半は主音A音上で和音が展開され、後半では低音の半音階的な動きを含み調が揺れる。最後は長い属音が終止を強調する。
アルマンドは、和声や旋律を断続的にし、その間の繋がりを奏者や聴く者の想像に任せる、フランスのリュートや鍵盤作品に特徴的な「スティル・ブリゼ」が用いられている。ポリフォニックに進行すると思わせる短い動機の模倣もフランス様式の一特徴である。
クーラントでは、頻繁なリズムの交替や、豊かな装飾音から、フランス様式を意識的にとりいれたことが伺える。ジグでは、特徴的な冒頭の動機が、時にそのリズムを2声部に分けた形で(ex. 10小節)、全体に配されている。後半部では冒頭の動機のゼクエンツに従い、5度圏に沿った転調がおこる。