4. ベルサン(La Bersan)
■作品について
クープラン(couperin, François 1668-1733)は大クープランと呼ばれ、J.S.バッハと並び称されるバロック音楽の大作曲家です。音楽家一家に生まれ、一族にも音楽家を多く輩出下のもバッハとの共通点です。宗教曲を中心に作曲したバッハと違い、クープランの得意分野は鍵盤楽器のための作品であり、著書のクラヴサン奏法(L’art de touchér le clavecin)は、当時の奏法の常識を変えた(クラヴサンを演奏するのに親指を使うように提案した)画期的な教本でした。
この曲の収められたクラヴサン曲集は全4巻あり、230曲を越える小品を含んでいます。それぞれの曲集は舞曲を中心とした通常の組曲もありますが、むしろ具体的で個性的な題名をもつ曲 (刈入れする人々、糸紡ぎ、おしゃべり、ひるがえるリボン、etc…中には人名まで) の雑集のような様相を見せています。ベルサンは第2巻の第6組曲、4曲めにあたります。
曲は二部形式(1~11小節、12小節~)でバロックの組曲としては普通の構成ですが、全体を通して繰り返す要素が少なく、極端に即興的であることが特徴です。逆にほとんど同じ音型が現れる各部のコーダ(9~10小節、27~28小節)は意識して雰囲気を揃えるのがよいでしょう。
楽譜上の分析を見ても分かる通り、かなり和音の交代が激しく、一見して騒々しい曲に見えますが、縦に聴こえてくる和音をシンプルに整理しないと、冒頭にある”Légèrment”、という指示と逆にバタバタしてしまいます。その辺りが演奏上の課題といえます。
また、バッハやそれ以降の音楽と違い、和音の繋がり感(論理性)よりはフレーズの流れや色彩感を優先に即興的に書かれています。音色だけに留まらない“軽やかさ”、という点が求められます。
■1小節目 最初の、1拍目を欠いた旋律は、主和音を感じて弾くか、第2部分(後半)を参考にV度での開始ととるかは解釈次第というところです。開始部分は左右の8度のカノンになっています。
6小節目 3拍めからゼクェンツが始まります。和声の上行する動きに自然とcresc.が付いてきます。
9小節目 今度は下行するゼクェンツ。この動きは曲尾の27小節にも(違う調で)現れます。
12小節目 2拍目からg mollで2部分目が始まります。メロディーとしては共通の要素はありませんが、ここもテンポは転がることなく切り抜けたい部分です。
15小節目 唐突にc mollに入ります。この辺りが理論的な和音の繋がり感より色彩を重んじたフランスの音楽家の面目躍如といったところだと思います。2拍目、4拍目のBassはそれぞれ前の音からくる逸音(和音外音)なので和声上は1、3拍目の和音をイメージしたままで良いと思われる。
17小節目 半音階を含むゼクェンツですが、ゴテゴテしすぎないように上行するラインを整頓して聴くようにしましょう。また、この辺りからの内声の合いの手風な動きは上下のパートと混ざらないように慎重に音色や音量を分けなければなりません。
20小節目 主調(=B dur)に戻ってきます。ここからの装飾の動きも外側の指(3、4、5)を使わざるを得ないので、くっつかずにクリアに奏せるように十分な練習が必要です。
27小節目 9小節目と同じ下行のゼクェンツですが、ここはdecresc.ではなく曲の終わりに向けてcrescがなされているのに注意しましょう。