信時 潔 :木の葉集

Nobutoki, Kioyoshi:KONOHA SHU

作品概要

作曲年:1934年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集

解説 (2)

総説 : 仲辻 真帆 (1283文字)

更新日:2014年5月21日
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信時潔は声楽作品を中心に創作活動を行っており、器楽作品はわずかに20曲ほどしか残していない。しかし、楽想豊かな15曲の小曲から成る《木の葉集》は、信時の表現力の高さを示しており、彼のピアノ曲を代表する作品の一つと言えるだろう。

1922(大正11)年よりドイツへ留学した信時は、帰国時に約1000冊にもおよぶ音楽書・楽譜を持ち帰った。そのうち、J.S. バッハに関連するものが約130冊あり、他には、ベートーヴェンやブラームスの楽譜が数多く見受けられる。しかしながら彼は、現代音楽など聴かぬ、学ばぬ、作曲せぬといった了見の狭い音楽家では決してなく、シェーンベルクやバルトークに関する文章も書き残しているし、教鞭をとっていた東京音楽学校(現在の東京藝術大学)で作曲科学生が「新しい」表現を試みた作品を持参した際も、固陋になることなく頷きながら理解を示している。当時最先端であった無調音楽やジャズも、ときには自作品に取り入れようと試みた。その片鱗は《木の葉集》においても感じられる。楽譜を一瞥しただけでも〈わびしきジャズ〉〈ロシアの田舎踊〉といった感興をそそる多彩な題目がならんでいる。

この作品について作曲者は、「1936年の作で、その頃からぼつぼつ世に出た早教育育ちの、譜がはやく読めて相当演奏力もある若い人達のためにかいたものである。曲趣と難易がさまざまであるから、好みに従って任意に数曲をひいてもよい。」と述べている(『信時潔ピアノ曲集』春秋社、1958年)。また、作曲者によると、「私のピアノ曲はどれも教育的見地に立ったもので、詩人の宮澤賢治が子供が読んでも大人が読んでもよい童話を書いたが、ちょうどそのようなつもりで作っている。《木の葉集》も、ちょっとピアノを習った者に弾けるもの、しかも表現に於いてはかなり深いものを目指している。」

《短歌連曲》、《小曲五章》、《六つの舞踏曲》など、信時は「連曲」を多く作った。《木の葉集》に関しては、全体の明瞭な一貫性は企図されておらず、折々の随感を綴った日記のような作品となっている。

なお、《木の葉集》が作曲された1936(昭和11)年は、日中戦争開戦の前年にあたる。信時の代表曲に数えられる《沙羅》と《海ゆかば》が同時期に作られており、この頃は彼の創作活動が充実していたことがうかがわれる。日本放送協会からの委嘱作品であった《海ゆかば》は、第二次世界大戦中、《君が代》と同等、あるいはそれ以上に頻繁に歌われ、「第二の国歌」とまで言われた作品で、学徒出陣において演奏されたり玉砕報道などと共に繰り返しラジオで放送されたりしたために、戦後長らく封印されてきた。しかし、簡素でありながらハ長調の和声・旋律の美しさを最大限に引き出した《海ゆかば》は、近年になって作品の価値が見直されている。

すべての楽曲に対して、自らの信じる音のみを用い、真摯に作曲へ向かった信時潔。とりわけ《木の葉集》は、彼の教育者としての使命感と、作曲家として創造性を求める探究心とが息づいた作品であると同時に、ピアノの音色がもつ豊潤さを堪能できる作品である。

執筆者: 仲辻 真帆

成立背景 : 仲辻 真帆 (1003文字)

更新日:2014年6月30日
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