《木の葉集》は、15曲の小曲各々が異なる情趣をもっており、それらが連関することで新たな魅力が見出される。信時潔は、《沙羅》をはじめ多くの「連曲」を作曲したが、楽曲の配置に対する鋭敏さは特筆してよいだろう。
共益商社書店より1936(昭和11)年に出版された《木の葉集》初版の冒頭には、以下のような記載が見受けられる。
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本曲は全十五曲を連曲として順次に演奏するのほか尚各番号を独立曲と認めて任意に選抜或は編成して奏することを得べし。
その編成に際しては例えば
A. I. II. VI. IX. X. XII。
B. I. IV. V. VII. VIII. XI. XII. XIII XV。
C. I. II. III. V. VI. VII. IX. XII。
等の如く曲趣、技巧の難易、所要時間等を斟酌して適宜の配列を考慮せられたし。
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また、別の箇所にも「全十五曲を通奏する場合は終曲としてⅠを茲に再奏するも可ならん」などの記載がある。
これらの注意書きは自筆譜に書き留められているもので、作曲者自身が付与した指示である。大きさ縦32cm、横24cmの糸で綴じられた自筆譜(清書)には、鉛筆書きによる《木の葉集》が記されており、上記の諸文の他、「Ⅰ、ⅡⅢⅡ」という具合に、消しては書いたローマ数字の羅列が見られる。赤線や記号の入り混じる譜面からは、作曲者が演奏順序を模索していた形跡が偲ばれる。自筆譜の末尾には「昭和十年十二月」の記入があるが、この清書の他にも「昭和10年2月12日」の日付が入った自筆スケッチが残されている。
《木の葉集》は、共益商社書店の初版以外に、1958(昭和33)年に春秋社より出版された『信時潔ピアノ曲集』や「現代日本ピアノ作品選」(1964年、カワイ楽譜)にも収録されている。2005(平成17)年には春秋社から復刻版も刊行された。作品内容からみても、各曲集に継続的に収録されている事実からみても、《木の葉集》が彼のピアノ曲を代表する作品の一つであることは間違いないであろう。
主要参考資料
・信時潔自筆譜《木の葉集》(東京藝術大学附属図書館所蔵)。
・出版譜『ピアノ曲 木の葉集』(共益商社書店、1936年)。