ピアノ協奏曲第1番は、1911〜1912年に作曲され、指揮科の師、ニコライ・チェレプニンに献呈された。この作曲時期は、プロコフィエフの12年にわたるペテルブルク音楽院生活の中で、作曲科を修了し、ピアノ科と指揮科の二科で学んでいた時期に当たる。指揮科では作曲家・指揮者のチェレプニンの門下生となったが、プロコフィエフがより興味を持ったのは指揮法の学習よりも管弦楽全般に対しての指導だったようで、その点で師から多くを学んだという。その指導の成果が、管弦楽作品創作に対する様々な試行錯誤の末に、この協奏曲で結実したと言える。それ以前にも管弦楽作品はいくつか創作されていたが、彼にとっては、このピアノ協奏曲こそが規模的にも出来栄えの面からも、「最初の成熟した作品」と自ら回想するほどの自信作だったようである。
初演は1912年7月25日(旧暦)に作曲家自身のピアノ、コンスタンチン・サラジェフ指揮により、モスクワで行われた。新聞評論は賛否がはっきり分かれた。サバネーエフは「この曲の作者は、おそらく『新奇性』を探して、また自分自身の本質というものがないために、完全にひずんでしまっている」と罵倒した一方で、モスクワで「現代音楽の夕べ」を主催していたデルジャノフスキーは、「輝き、鋭さ、ぴりっとした辛さ、ユーモア」を称えた。この二人はスクリャービンの友人として知られており、現代音楽への理解もある程度あったはずである。同じ陣営の二人にとって、新人作曲家の新曲がかくも真反対に響いたとは、何とも興味深いことである。1914年4月22日に行われたアントン・ルビンシテーイン記念コンクールでの自作自演も、初演と同様によく知られている。彼はそこでこの協奏曲を見事に弾ききり、一等賞となるルビンシテーイン賞を受章し、グランドピアノが贈られた。
プロコフィエフがこの協奏曲を評して「最初の成熟した作品」と呼んだことは上に引用したが、その根拠は、楽曲中の二つの「構想、そしてその達成」にあるという。第一の構想は、ピアノとオーケストラの編成の組み合わせである。ピアノは対位法による複数の声部の複雑な組み合わせ、大きな音程での跳躍、鋭いスタッカート、極端な高・低音域の積極的な使用といった、プロコフィエフ作品にしばしば見られる特徴を備えているが、オーケストラと組み合わせられることにより、それがときに独奏として機能し、ときに全体の響きに溶け合って、独特の音像を作り出し、一定の効果を生み出している。
第二の構想は、独特な形式である。この協奏曲は序奏付きの単一楽章の拡大されたソナタ形式として解釈できる。しかし、アンダンテの部分が軽やかな展開部の前に挿入されることで、それぞれの部分が第2楽章(緩徐楽章)、第3楽章(スケルツォ)として機能し、4楽章構成の楽曲としても解釈できる作りになっている。プロコフィエフ自身は、この構成を作り上げ、各エピソードをうまく緊密に関係づけることができたと満足していたようである。
協奏曲は力強い序奏で幕を開ける。変ニ長調の主和音に続く、ピアノ、ヴァイオリン、オーボエによる旋律は、エネルギッシュな付点リズムを伴っており、G♮/G♭、C♮/C♭などといった半音階的半音を伴ってどことなくエキゾチックでもあり、ユーモラスでもある。この序奏は楽曲中で3度繰り返され、プロコフィエフは「協奏曲を支える3人の中心人物のようだ」と自ら分析して語っている。移行部分がそれに続く。調号がなくなり、まずはピアノが独奏で現れ、徐々に管弦楽が加わっていく。ピアノはこの部分全体を通じてトッカータ的で、軽やかに高音を駆け抜けていく。再び変ニ長調へと回帰し、急速な舞曲を連想させる三連符のリズムと、軽快な同音反復を基調とする主要主題が始まる。同音反復は速度と音域を上げながら推移部へ移行し、金管とともに盛大にファンファーレを奏でる。
続く副次主題はホ短調で提示される。プロコフィエフ自身は、二つの主題があるとして、主にトロンボーンによって提示される中低音域を占める仄暗い主題と、ピアノによるオクターヴ・ユニゾンによる幅広い音型を挙げている。この二つの主題が交互に繰り返されたのち、ピアノの小カデンツァ的な部分を挟み、提示部はホ調のままコデッタへと向かうが、ボルテージが最高潮に達する部分で突然変ニ長調に転調し、序奏を短く再現する。ここでは冒頭部分とは異なり、オーケストラが旋律を担当し、ピアノは装飾的な役割を与えられているが、数オクターブにもわたるユニゾンで奏でられる8分音符の分散和音は、脇役というには非常に華やかで、全管弦楽の中でも埋もれない輝きを放っている。
ゲネラルパウゼの沈黙のあと、唐突に楽曲は雰囲気を変え、単一楽章の中で独立した緩徐楽章の役割を担うアンダンテへと移行する。幅広い主題が管弦楽によってロ長調で提示されると、それに応答するかのように調を変えてピアノ・ソロが続く。この主題が徐々に盛り上がる形で楽曲は進み、再びフェルマータにより沈黙へと還っていく。
アレグロ・スケルツァンドと標示された展開部は、非常に短いが、プロコフィエフ自身が「スケルツォ的性格をもつ」と明言している。提示部に先立って現れた移行部と主要主題が簡単に展開され、そのままカデンツァ的に再現部が始まる。ここで冒頭主題はハ長調で現れ、したがって冒頭の調への回帰が行われていない。この点で、異色の再現部である。副次主題は嬰ハ短調で、ここでようやく変ニ長調の関係調へと向かう(同主短調の異名同音調)。コデッタと同様の高揚ののち、変ニ長調による序奏の再現により、華々しいフィナーレを迎えて終結する。