1828年9月、シューベルトは体調をくずし、兄フェルディナントのもとへ身を寄せた。死のわずか2ヶ月前のことである。しかし彼の創作意欲は衰えず、最後の3つのピアノ・ソナタを一気に生み出した。第19番はその1作目にあたる。そして10年後の1838年に、ディアベリ社から「シューベルト最後の作品。3つの大ソナタ」として、第20、21番と共に出版された。作曲家はJ・N・フンメルへ献呈するつもりであったが、出版の前年に当の受取人が没したため、出版社の判断でシューマンに献呈されることになった。
ベートーヴェンのピアノ変奏曲WoO80を意識したことは、第1楽章冒頭から明らかである。前年に没した偉大なる先輩に対するオマージュであろうか。
第1楽章:アレグロ、ハ短調、3/4拍子。ソナタ形式。冒頭主題がベートーヴェンのピアノ変奏曲WoO80によく似ている。全体的にも、シューベルト特有のやわらかな響きは少なく、厳しく不気味な雰囲気に占められている。コーダ部分でも再びベートーヴェンを想起させる。
第2楽章:アダージョ、変イ長調、2/4拍子。ベートーヴェンの《悲愴》ソナタと同じように、変ホ長調のやさしい主題で始まり、そしてまた翳りをみせる。転調も頻繁である。
第3楽章:メヌエット。アレグロ、ハ短調、3/4拍子。比較的穏やかな楽章。メヌエット部とトリオ部の対比も強くはない。だがその分、フィナーレの躍動感が生きてくるだろう。
第4楽章:アレグロ、ハ短調、6/8拍子。ソナタ風ロンド形式。タランテラのような快速楽章。他にも舞曲のようなリズムを感じさせる生き生きとしたフィナーレである。