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ケックラン :2台のピアノのための組曲 Op.6

Koechlin, Charles:Suite for two pianos Op.6

作品概要

楽曲ID:5577
作曲年:1896年 
出版年:1898年 
初出版社:Alphonse Leduc
楽器編成:ピアノ合奏曲 
ジャンル:組曲
総演奏時間:14分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (1)

解説 : 西原 昌樹 (2466文字)

更新日:2022年7月12日
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《2台のピアノのための組曲》Op. 6(1896)はケクラン(ケックラン)の最初期の作品の一つである。当時のケクランは旋法と対位法の考究に注力し、合唱曲と歌曲を創作の中心に据えた。本作と《ピアノ連弾のための組曲》Op. 19(1898-1901)は初期ケクランの貴重な器楽曲といえるが、2作とも研究者の興味はさほど高くないようだ。前衛的な書法に及ぶこともある後年の作品に比べれば保守的な書法にとどまり、技法の上で着眼点を見いだしにくいからであろう。いっぽうで、穏健ながらも個性あふれる楽想は他に類例がなく、かねてよりピアノデュオに携わる者の強い関心を集めてきた事実もある。ケクランのオリジナルのピアノデュオ作品としてはもう一作、連弾用の《4つのフランス風ソナチネ》Op. 60(1919)がある。こちらは研究者の評価も申し分なく高い中期の傑作だが、絶版が長期に及んだことから、初期の2作以上に知られていない。今こそ、ケクランのピアノデュオ作品の真価を、積極的な実演をもって明らかにすべき時であろう。

ケクランのアーカイブ(Archiv Charles Koechlin)の管理・運営に長年尽力するオトフリート・ニース(Otfrid Nies)は、ケクラン自身による自作の解説(未刊)の中で、本作を標題音楽にしなかった事情について言及があることを紹介している(第1曲と第4曲はそれぞれ「晴れた朝の穏やかな散歩」「少女と侍が登場する日本の情景」の描写となり得るが、第2曲と第3曲には何も標題が浮かばなかったという。[O. Nies : Sleeve notes on Music for 2 Pianists of Ch. Koechlin by Tal & Groethuysen, BR Klassik, 2000])。また、ケクラン研究の第一人者であるロバート・オーリッジ(Robert Orledge)は、評伝(Charles Koechlin : His Life and Works, Harwood Academic Publishers, 1989)の中で、確認し得る本作の最古の公開演奏として1937年3月1日、パリのサル・ショパンにおける演奏記録(Mesdames S. Lecointe, L. Amand)を挙げ、これをもって初演としている。しかし、本作には à Madame Louis Salomon (ルイ・サロモン夫人に)との献辞があるから、作曲されてまもない時期にサロンなど私的な場で初演がなされたと考えるのが自然であろう。今後の考証が待たれる。

本作から派生した作品として以下2点が存在する。

《アレグレット》Op. 6bis ヴァイオリンとピアノ [Leduc, 1899]

《アンダンテ》Op. 6ter ヴァイオリンとピアノ(チェロ追加任意)[Leduc, 1899]

Op. 6bis は、2台ピアノ用の Op. 6 の第2曲(Andantino con moto)と同じ曲である。速度表示が相違していることからすると、第2曲の速度表示はアレグレットでもあり得たものが、2台ピアノの組曲としてまとめるにあたって作曲者が意図的に全曲の速度をアンダンティーノに統一したという仮説も成立し得よう。いっぽう、Op. 6ter は Op. 6を構成する4曲のいずれにも該当しない、別の曲である。当初は組曲に含める前提で作曲されたものが、結果的に組曲には入らず、Op. 6ter として独立させたものと推測される。

十数年来、折にふれ2台のピアノで本作の演奏にとりくんできて強く感じるのは、初期作品ならではのみずみずしい魅力と、柔和な外観にひそむ先進性である。本作には、恬淡とした後期作品にはない艶めきと、学究肌のこの人らしい老成した落ち着きとが同居する。明瞭な調性を示すが、伝統的な機能和声からは離れた和声法である。師匠のマスネフォーレ、あるいは初期ドビュッシーの和声法を、印象主義とは異なる方向に拡張したものといえるが、聴きようによっては、クラシックを飛び超えたイージーリスニングやヒーリングミュージックの色調を連想させる。また、全体の構成において、組曲らしい求心性が意識的に排除されていることも特徴的である。全曲がアンダンティーノに統一されたうえ、ニュアンスに富む発想標語が各々に付記される。緩急の観念がぼかされ、全てが中庸に、フラットになる。この構築性の希薄さは、前衛が極限まで行き着いた末に登場したポストモダンのそれを思わせる。本作のあとに書かれた《ピアノ連弾のための組曲》では、伝統的な緩急の枠組みが復活し、華やかな演奏効果をねらった箇所もみられるだけに、本作の特異性がきわだつ。あらためて言うが、本作が作曲されたのは1896年である。れっきとした19世紀の楽曲なのである。ドビュッシーが《牧神の午後への前奏曲》(1894)を書いてようやく印象主義の端緒を開いたところである。ロマン派の毒々しい残滓はそう簡単には払拭されず、まだそこらじゅうにしぶとく充満していた。ケクランが一人で時代を突き抜けて、半世紀以上も時代を先取りした音楽を書いた事実は重い。近代フランスの2台ピアノの重要なレパートリーとして定着することを切にねがってやまない。

第1曲 Andantino (Leggiero e non troppo lento) 8分の12拍子 ハ長調

第2曲 Andantino con moto 4分の3拍子 変イ長調

第3曲 Andantino con moto quasi allegro 4分の2拍子 イ長調

第4曲 Andantino quasi allegretto (Poco scherzando) 4分の2拍子 ハ長調

執筆者: 西原 昌樹

楽章等 (4)

第1曲

調:ハ長調  作曲年:1896 

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第2曲

調:変イ長調  作曲年:1896 

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第3曲

調:イ長調  作曲年:1896 

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第4曲

調:ハ長調  作曲年:1896 

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