まず、この曲の小節数なのですが、大変誤解しやすい小節の書き方となっており、この本文とズレて見てしまう可能性があります。この曲の小節数は、筆者が数えたところ70小節あります。これより多かったり、少なかったりした場合、どこかでズレが生じています。念のため、各セクションで、小節番号を述べ、確認しながら進ませたいと思いますので、皆様も臨機応変に対応して下さい。
更に、この曲のペダルマーキングや、クレシェンド、ディミニュエンドは本当に,出版社や校正者によって変わってきます。筆者は一応、筆者の楽譜に書いてあるマーキングに従います。ちなみに筆者の楽譜は、Breitkopf & Hartel になります。以下、説明を始めます。
1ー2小節間 の冒頭のメロディーラインで、1小節目、筆者の楽譜にはクレシェンドとディミニュエンドが、丁度2ー3拍間をピークポイントとして書かれてあります。この考え方もありとは思いますが、2小節目の1拍目、Fに向かうクレシェンドでもありだと思います。一応、この1ー2小節間で決定したシェーピング(どの音に向かうか)は、後のメロディーラインと一致していた方が自然だと思います。学習者は担当講師と相談の上、この1ー2小節間のシェーピングを決定して下さい。
3-4小節間、2拍毎に、ペダルを変えます。版によっては、ペダルオフマーキングが和音のすぐ後に書かれてあるものもありますが、筆者個人的な見解としては、和音が変わるまでペダルは踏みっぱなしの方が良いと考えます。従って、4小節目は1小節間、踏み続けます。
以下、12小節目まで、レチタティーボと3ー4小節間の素材が交互に繰り返されます。1ー2、5ー6、9ー10小節間のレチタティーボは、3つとも表情を変えて演奏して下さい。3つとも同じようにはならないようにします。
カデンツが終わり、13小節目、Andantinoでいよいよ曲が動き始めます。以下、13小節目から33小節目までの話になります。33小節目はカデンツの始まりで、ここまでが一区切りと考えます。この、13ー33小節間、セクションを3つに分けます。
1 13ー21小節間
2 22ー25小節間
3 26ー33小節間
になります。皆様に考えていただきたいのは、この3つのセクションのそれぞれのムードです。
13ー21小節間、人に物語を語るように歌い上げます。ムードは決して楽天的ではないですね。悲しみが入っています。
22ー25小節間、メロディーラインはこのセクションで、最も高い位置に書かれている音、Cesまで達します。音が高い位置にあるのだから、音量はより大きくと言う考え方もあるとは思いますが、筆者がこのセクションの和音を聴いたとき、決して深刻なムードではないと感じます。回想的な部分であったり、一時的な安らぎであると考えますので、筆者であれば、音量は、13ー21小節間より落とすと思います。
そして、26ー33小節間が、筆者にとっては最も深刻で現実的なムードの場所です。13ー21小節間で、フレーズは2つありましたね。各フレーズの終わりの音を見て下さい。1つはFで終わっていて、もう1つはDesで終わっていますね。調はB-mollですから、2つとも主音で終わっていません、つまりは不完全終止になります。
ところが、26ー33小節間にある2つのフレーズで、1つはBで終わっています。つまりは完全終止であり、句読点で言えば句点の部分です。運命的で、更なる悲しみを感じる部分ですね。そのような理由からも、26ー33小節間はもっとも強調するべきセクションと考えます。
32ー33小節間の右手のトリルは、クレシェンドーディミニュエンドをかけ、音量が大きくなるにつれてトリルの数を増やし、音量が小さくなるにつれてトリルの数を減らすと良いでしょう。最終的に、トリルの速度は、次の32分音符で始まるカデンツの速度に一致させるとスムーズに聞こえます。
テクニック的にも音楽的にも、この曲で最も難しい場所は、34小節目から始まるbrillante la
melodia ben marcato のセクションだと思います。学習者はメロディーラインをハッキリと出し、それ以外の装飾的な音符をppで弾くようにします。そして、どんなに込み入った難しい部分でも、メロディーのシェーピングは忘れないようにしなければなりません。
50小節目、メロディーラインがオクターブになる場所で考えなければならないのは音量の問題です。50ー53小節間、最も音量が大きくなるのはどこだと思いますか?筆者は53小節目と考えますが、それは人によって捉え方が異なってもかまいません。ただし、50ー53小節間というのは、力任せに弾くとかなり乱暴に聞こえてしまいます。方向性を持ち、全てのオクターブが異なった音量になるようにしてください。同じ音量が続いてしまうと硬く聞こえます。