作品概要
ピティナ・ピアノステップ
23ステップ:応用7 発展1 発展2 発展3
楽譜情報: 0件解説 (2)
総説 : 仲辻 真帆
(841 文字)
更新日:2015年1月20日
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総説 : 仲辻 真帆 (841 文字)
《ピアノのためのからたちの花》は、山田耕筰の歌曲の中でもとりわけ人口に膾炙している《からたちの花》をピアノ独奏曲にパラフレーズした作品である。この作品の楽譜が収録されている『山田耕作全集: ピアノ曲集 第11巻』(山田耕作編、春秋社、1931年)によれば、《ピアノのためのからたちの花》は北原白秋に捧げられた。1925(大正14)年、雑誌『女性』に発表された歌曲の《からたちの花》は、北原の詩によるものである。山田と北原は1922年に雑誌『詩と音楽』を創刊するなど親交が深く、《この道》、《待ちぼうけ》をはじめとする多くの歌曲を共作した。
山田によると、《からたちの花》は「私の曲のうちで最も大衆に親しまれてゐるものだが、最もむづかしい曲の一つ」でもある。その難しさは、「極めて単純に書かれてある」点と「日本語を生かして」作曲されている点に起因する。彼は折に触れ、《からたちの花》の旋律構成について解説し、自ら歌唱方法を説いた。2001(平成13)年に岩波書店から出版された『山田耕筰著作全集Ⅰ』にも、《からたちの花》の歌唱に関する記述が掲載されている。その指示は、「『からたち』のかをやゝ抑へて漸弱し、らたちは、むしろ軽く流すやうにする」「『白い白い』の、はじめのしろいは、訝るやうに、やゝ逡巡ふやうに唱ひ…」「『花が』は、はをpにし、なをppとして、極めて少量に漸強してがに入る」などの如く、実に詳細にわたっている。音高や音価は言うまでもなく、例えば強弱記号、アーティキュレーションなども含め、山田は一つ一つの音と記号にそれぞれ意味を持たせた。上記の要求は歌曲の《からたちの花》に向けられたものであったが、ピアノ曲を演奏する際においても、山田の楽譜から読み取るべきものは多いと言えるだろう。
《ピアノのためのからたちの花》は、単に歌曲がピアノ演奏用に編曲されたものではない。のびやかな旋律はピアノの特色を活かしながら装飾的且つ自由に展開されており、弾きごたえのある作品となっている。
演奏のヒント : 杉浦 菜々子
(887 文字)
更新日:2024年4月14日
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演奏のヒント : 杉浦 菜々子 (887 文字)
山田耕筰の歌曲「からたちの花」の山田自身によるピアノ編曲版で、山田のピアノ曲の代表作ということができよう。美しく清書された自筆譜からは山田の息遣いが感じられる。初版には、「白秋兄へ 耕作」と北原白秋への献辞が書かれている。初版は、昭和3年5月に日響楽譜から出版され、その3年後の昭和6年7月に出版された春秋社「山田耕作全集 第十一巻」(旧全集)にも掲載された。
流麗な左手の伴奏形に乗って、右手の歌が自由に歌われる。山田はクレッシェンドやディクレッシェンドの松葉の記号を多用しているが、歌の抑揚の意味合いであろう、自然な表現を目指したい。また、メロディに付記されたスタッカートを用いて、軽やかな足どりと推進力を感じて演奏されたい。
12小節目右手2拍半の音は、自筆譜ではas・as、出版譜ではges・gesである。続く13小節1拍目は、自筆譜では左手des・as・des・fのアルペジョ、右手as・des・f・asのアルペジョ、出版譜では左手des・des、右手des・f・as・desのアルペジョである。自筆譜の音で演奏すると内省的な雰囲気、一方出版譜の方は開放的な響きが出ると思う。どちらで演奏するかは演奏者の判断に委ねたい。(ミューズ・プレス『山田耕筰ピアノ曲拾遺第二集 山田耕筰歌曲によるピアノ編曲』巻末に自筆譜の譜例記載)
42小節目はその前からのペダルを踏みかえず、豊かな響きの中で奏されるのに対し、46小節目はsenza pedaleの表記通りペダルなし、accel.のスピード感で、スケルツァンド的な表情を見せる。続く小節線上のフェルマータで一瞬時が止まり、ppのアルペジョで緩んで色彩が溶けるように。こうした楽譜に書かれた微細な時と色彩の美しさが、歌曲「からたちの花」の世界に一層の彩りを与えている秀逸な歌曲編曲となっている。
【楽譜情報】
●自筆譜 Ms.329
●初版
●春秋社旧全集
●春秋社新全集
●ハッスルコピー
●全音ピアノピース
●音楽之友社「日本の変奏曲」
●ミューズ・プレス「山田耕筰ピアノ曲拾遺第二集 山田耕筰歌曲によるピアノ編曲」