ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第24番「テレーゼ」 嬰ヘ長調 Op.78
Beethoven, Ludwig van : Sonate für Klavier Nr.24 Fis-Dur Op.78
作品概要
作曲年:1809年
出版年:1809年
初出版社:Breitkopf und Härtel
楽器編成:ピアノ独奏曲
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:10分00秒
著作権:パブリック・ドメイン
解説 (2)
執筆者 : 小崎 紘一
(590 文字)
更新日:2010年1月1日
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執筆者 : 小崎 紘一 (590 文字)
冒頭のわずか4小節の序奏の美しさが、彼のピアノ作品の中でも比肩することのない情緒を湛えている。二楽章構成の私的な雰囲気を残す中期の作品。同じ年には《皇帝》が発表されているが、この頃のベートーヴェンの室内楽曲は1808年中ごろまでの《運命》《田園》に代表される管弦楽作品が次々に生み出されていた時期を終え、続く同《7番》《8番》を発表する間に位置している。主題の展開などの研究につとめていた時期でもあり、この作品から続く3つのピアノソナタを俗にカンタービレ期とする分類も見られる。第一楽章の展開部で聴くことの出来る第一主題の細やかな扱い方や、第二楽章のソナタ形式とロンド形式が同居したような展開は耳を惹く。前楽章の半分にも満たない規模であるが、デリケートな軽やかさに貫かれていて心地よい。いわゆる「中期ベートーヴェン」から想像する雄雄しさとはまた違った側面が感じ取れる。
献呈されたテレーゼ・フォン・フラウンシュヴァイクはベートーヴェンがおそらくは生涯を通して友情を育んだ女性である。彼女から送られた肖像画をベートーヴェンは死ぬまで誰にも見せることなく、後に遺品の中からかの「不滅の恋人」へ宛てた手紙と共に発見されたことから長い間「不滅の恋人」本人であると考えられていた。この作品を捧げた時期には婚約の間柄にあり、「生命が豊かに湧き上る想い」(ロマン・ロラン)がふたりを支配していた。
解説 : 丸山 瑶子
(829 文字)
更新日:2025年2月19日
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解説 : 丸山 瑶子 (829 文字)
ベートーヴェンがしたため、結局は投函せずに終わった恋文らしき手紙は、宛先不明のまま後世に残され、手紙の相手、いわゆる「不滅の恋人」は誰かと研究者たちの議論を呼んだ。候補者のうちの一人がテレーゼ・フォン・ブルンスヴィク伯爵令嬢。ハンガリー系の貴族家庭の令嬢であり、妹のヨゼフィーネとともにベートーヴェンからピアノのレッスンを受けていた(ちなみに、テレーゼは後々「不滅の恋人」候補から外され、ヨゼフィーネが有力候補に残ったが、現在では他の有力候補であるアントーニエ・ブレンターノがその人であろうとされている)。
テレーゼは実に音楽的才能の高い女性で、六歳にして公の場でアントニオ・ロセッティによるピアノ協奏曲を演奏したほど。のちのち1828年、テレーゼはハンガリーに初めての保育園を設立した才媛である。ベートーヴェンのピアノ・ソナタop. 78は1809年に書かれ、1810年にテレーゼに献呈されたゆえ、彼女の名前が作品の通称になっている。
中期の劇的様式の代表格である「ヴァルトシュタイン」および「熱情」と、伝記的にも注目を浴びやすい「告別」ソナタの間で、このop. 78は2楽章構成で規模も小さく仕上がっている。しかしだからと言って、周辺の作品よりも低く評価されるべきではない。中期のベートーヴェンは、大規模な作品の一方で、弦楽四重奏曲《セリオーソ》op. 95など、切り詰めた長さながらも巧妙な作曲法を試みた曲も書いており、op. 78はむしろこの部類に属すると捉えた方が良いだろう。シャープ6つという、ベートーヴェンのピアノ作品の中で唯一の嬰ヘ長調を選んでいる点からしても、そもそも平易さなど眼中外なのは明らかではないだろうか。各楽章の解説に記すように、op. 78は明確な構造よりも受容者の思考活動を喚起する作品であり、二つの楽章を照らし合わせてみれば、ひょっとすると奔放に流れていくかの如く聞こえる二つの楽章が、様々な点で繋がりを持っていることがわかる。
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