ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第12番 「葬送」 変イ長調 Op.26
Beethoven, Ludwig van : Sonate für Klavier Nr.12 As-Dur Op.26
作品概要
解説 (1)
執筆者 : 岡田 安樹浩
(1588 文字)
更新日:2009年1月1日
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執筆者 : 岡田 安樹浩 (1588 文字)
ベートーヴェンはこのOp.26のソナタから新たな一歩を踏み出す。それは、主要ソナタ形式楽章を意図的に避け、変奏曲やキャラクターピースによってソナタ全体を構成することではじめられる。しかしこの楽曲構成は、ベートーヴェン独自の発想というよりは、おそらくモーツァルトのイ長調ソナタK.331をモデルとして作曲したのであろう。
冒頭楽章を変奏曲で作曲し、続く楽章は舞踏形式(モーツァルトではメヌエット)と行進曲(モーツァルトはトルコ行進曲)によっていることは、偶然の一致であるはずがない。
それでもなお、ベートーヴェンの独自性が認められるのは、舞踏形式としてスケルツォを導入し、トッカータ風のフィナーレによって楽曲を閉じている点である。とりわけフィナーレは、その即興演奏的な性格は伝統的な「ソナタ」の枠組み収めるには居心地の悪いものであるが、後にショパンが第2番のピアノ・ソナタにおいて、フィナーレをトッカータ風の即興的楽句によって閉じていることと通底しているとみてよいだろう。
なお、この作品が作曲されたと推定される1880年~01年には《交響曲第1番》Op.21や弦楽四重奏曲Op.18などを完成しており、創作意欲に満ちた時期であり、ソナタという伝統に果敢に立ち向かうベートーヴェンの姿が見て取れよう。
(第1楽章)変イ長調 8分の3拍子 変奏曲形式
反復記号を持たない34小節の主題と、5つの変奏からなる。この長い主題は3部分からなり、冒頭8小節の楽句とその反復(第16小節まで)、スフォルツァンドによってアウフタクトが強調される推移的な10小節の楽句(第26小節まで)、そして冒頭の楽想が回帰(第34小節まで)して完全終止する、という構造になっている。
続く5つの変奏においては、主題の和声進行がほぼ忠実に守られ、それぞれに特徴的な音型の変奏が連なってゆく。第3変奏は同主短調である変イ短調へ転調する。
(第2楽章)変イ長調 4分の3拍子 スケルツォ
変イ音から変ホ音へ順次上行するスケルツォ主題は、主調である変イ長調の音階固有音ではないニ音をとることでいきなり意表をつく。この順次進行はリディア旋法のようにも感じられるが、この4小節からなるこの動機は変ホ長調に終止しており、すぐに変イ長調に終止するべく4度上(変二音から)で反復されることから、冒頭は属調で開始されたことがわかる。このような聴き手の意表をつく開始は同時期に作曲された《交響曲第1番》の冒頭にもみられ、こうした「遊び心」とも「野心的」ともとれる作曲法は、この時期のベートーヴェンの1つの特徴的な側面であるといえよう。
16小節間のスケルツォ主題の提示と確保の後、これを発展的にあつかう主部(変イ長調)に入る。なお、ダ・カーポの際は冒頭の16小節は省略される。
トリオは下属調である変ニ長調をとり、冒頭では属調→主調の関係で導入されたのに対し、トリオから主部への調性関係が下属調→主調に置き換わる。
(第3楽章)変イ短調 4分の4拍子 葬送行進曲
アウフタクトと付点リズムによって特徴づけられた4小節構造の楽想とその発展が、中間部をはさんで回帰する3部分形式の葬送行進曲。
主部では平行調(変ハ長調)の同主短調を異名同音に読み替えたロ短調、その平行調であるニ長調へ転調を経て、二音を共通音とする変イ短調の二重ドミナントを介して主調へ収束する。中間部は同主長調の変イ長調をとっている。
(第4楽章)変イ長調 4分の2拍子
トッカータ風のフィナーレは、その音型的特徴、第2・第3楽章での調性的発展に比して限定的な調性の利用、そしてこれまでの3つの楽章が執拗に4小節、8小節単位の楽節構造にこだわっていたのに対して不規則な楽節構造をとっていることなどから、即興演奏のなかから生み出されたか、またはそれに近い形で生み出された楽曲であるように思われる。
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