モーツァルト : 2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 K6.375a
Mozart, Wolfgang Amadeus : Sonate für 2 Klaviere D-Dur K.448 K6.375a
作品概要
解説 (3)
執筆者 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部
(140 文字)
更新日:2010年1月1日
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執筆者 : ピティナ・ピアノ曲事典編集部 (140 文字)
モーツァルト作品中、完全な形で残された唯一の2台ピアノ用ソナタ。聴くものは明るく伸びやかな曲想によって爽やかな印象を得るだろう。演奏者は奏者間の軽妙な掛け合いを楽しむことができる。このジャンルにおいては例外的なほどのポピュラリティを得ている貴重な古典的名作であり、演奏機会は多い。
総説 : 中塚 友理奈
(665 文字)
更新日:2015年5月12日
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総説 : 中塚 友理奈 (665 文字)
モーツァルトが完成させた唯一の2台のピアノのためのソナタである。作曲は1781年11月頃、ウィーンにおいてではないかとされている。父レオポルトに宛てた手紙によると、この作品は弟子と共演するために作曲されたらしい。全3楽章から成る。
第1楽章(アレグロ・コン・スピーリト)はソナタ形式で、4分の4拍子。提示部における第1主題は行進曲風の付点リズムを特徴とするフォルテのユニゾンで力強く始まる。これは当時の交響曲の典型的な身振りである。イ長調の第2主題はドルチェで第2ピアノが担うが、やがて第1ピアノも加わり短いカノンが形成される。
提示部がアルペッジョで結ばれた後、展開部では提示部の2主題と共通して下行→上行という同じ旋律型に基づく新たな主題が奏される。ここでは動機の半音階的な動きが不安げな情動を喚起する。また、第2主題に見られたカノン風の扱いが展開部冒頭でも見られる。激しいユニゾンや強まっていく掛け合いを経て再現部に移る。展開部の主題を使うという、モーツァルトの作品においては珍しい方法で最後を締めくくっている。
第2楽章(アンダンテ)はソナタ形式で、4分の3拍子の歌唱的な楽章。この楽章のみト長調である。第1ピアノと第2ピアノがそれぞれ役割を受け継いだり、役割を交換したりするなどといった変化を見せる。
第3楽章(モルト・アレグロ)はロンド形式で、4分の2拍子。ロンド主題は彼の作品でも有名な《トルコ行進曲》に似ている。調はイ短調、イ長調、ト長調、ニ短調など様々に移り変わり、主調へと戻っていく。最後は長いコーダで華やかに終わる。
演奏のヒント : 篠崎 みどり
(2381 文字)
更新日:2015年5月12日
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演奏のヒント : 篠崎 みどり (2381 文字)
この曲は1781年25歳の時に作曲された。そしてヨーゼファ・バルバラ・アウエルンハンマーと言う優秀な弟子と共演するための作品である。第二ピアノ(以下セコンド)をモーツァルトが演奏、第一ピアノ(以下プリモ)をアウエルンハンマーが演奏した。
全体3つの楽章から成り立つ。プリモとセコンド共に同じ旋律を交互に演奏、または呼応することが多いことが特徴。
第一楽章 Allegro con spirit ソナタ形式
冒頭は力強く華やかに始まる。第一主題は両パート共に音域は違うがユニゾンの動きである。軽快さと躍動感あるリズムはモーツァルトらしい。両パートは呼応し合い流れを止めることなく進んでいく。8分音符の刻みは崩れることなく正確に弾くことが大切。次から次へと音楽が流れプリモとセコンドが交換し合うが、音型ごとの受け継ぎをタイミングよく行いながら流れに乗るように。
第二主題は第一主題と対照的でdolceで奏する。デュナミークの指示はないがpと思われる。2小節ごとに4分休符が現れるが、そこで流れを止めることなく長いフレーズを考えてみよう。第二主題は更に発展し両パートとも音域を変えてポリフォニック的に動いていく。その後のエピソード部(経過部分)の両パートの動きは交互に模倣しながら盛り上がっていく。65小節から小結尾前の副主題をプリモが歌い上げ、音階的な動きやアルペジオなど登場しながら提示部を終える。ここは両パート共にユニゾンでの動きは崩れないように運指を工夫のこと。
展開部(81~)はセコンドから始まりプリモへと移行。新しいひとつの旋律が暫くの間発展していく。そしてベースの保続音Aを経て再現部へと導く。第二主題はD-dur。Coda前には展開部初めの新しい旋律が再びプリモに現れて発展したのちに終結する。
第二楽章 Andante A(1-12)B(13-35)C(36-48)D(49-70)A(71-82)B(83-1059Coda(106-)
Aセクション(提示部)のセコンドの伴奏に乗ってプリモが優しいし静かな歌(旋律)を歌い上げる。その後13小節からプリモが動きを1小節ずらしてセコンドが模倣し、音型を変えながら交互に発展していく。両パート共に旋律と伴奏形との音量バランスをよく聴きながら弾いていくように。リピート記号のあとのDセッションでは新しい音型が登場する。3度の重音の動きがモーツァルトの特徴であるが、その響きをよく聴くように。続いてプリモが3度重音での旋律を両手で歌い上げる。64小節からプリモ下声部の動きとセコンド上声部の動きをよく見てみよう。同じ16分音符の動きではあるが3度の音程を保ちながら再現部へと導く。互いによく聴き合い動きを揃えるようにセコンドのベースは8分音符で拍子感を、プリモは伸び伸びと旋律を歌いながら注意深く両パートを聴き合うように。
Aセッション再現部71小節からCodaまで全体の動きは提示部とほぼ同様。Coda106小節に入る前の小節の第3拍目は本来ならF#、そしてG音へと終止形になるが、F♮の変化音を使って一瞬a-mollに転調して音楽の余韻を感じさせている。109小節の減七の和音も緊張感を伴い一度引き締めてから徐々に互いのパートが美しい音の動きを綴りながら終止する。各パートの音の役割を存分に果たしながら演奏するように。
第三楽章 Allegro molto ロンド形式 A(1-41)B(42-84)C(85-138)A(138-159)D(159-230) B(231-277)C(278-345)A(345-360)Coda(361-)大きく8セッションに分かれCodaで終止。
A アウフタクトで始まる第一主題はプリモからスタート。躍動感ある動きであろ。ミレド#レラのモチーフをリピートしながら連ねるフレーズはモーツァルトのピアノソナタ≪トルコ行進曲≫と類似している。反復記号あとエピソード部の両パートユニゾンでの分散音はバランスに気配りしながら弾くように。続いてセコンドの16分音符は指示通りレガートで粒を揃えて弾き、その上にプリモのリズミカルなユニゾンの旋律は互いのアンサンブルを大切に。
B a-mollのプリモ第二主題の美しい旋律はセコンドの和音進行に乗って奏するように。途中から役割が交換するが受け継ぎと互いのバランスをよく聴くように。
C 同主調A-dur、弱奏でコラール風な和音での旋律を作る。そのあと100小節からの長いエピソード部は音の動きの模倣と交換であるが、1小節ごとの掛け合いは止まらずスムーズに音楽が流れるようにタイミングが大切。121小節からプリモはホルン五度を伴う重音の動きを持つので完全五度の響きをしっかりと聴くように。曲の冒頭の第一主題の音型の変形を保ちながらフェルマータへと導く。ここは単に伸ばしているだけでなくAへの繋ぎとして任意の動き(カデンツのような)を若干入れることを勧めたい。
A138小節から第一主題が始まりD(159~)ここから新しい旋律が登場。先ずはG-durでプリモが8小節奏し続いてセコンドが同じ旋律を模倣する。そのあと再びプリモがトリラーを伴う旋律を奏でる。この時の左手アルペジオの伴奏形は小節ごと下降していくが、人によっては少々弾き難いことも考えられる。このパートもやがてセコンドが受け継ぐ。ここの箇所は両パートの腕のみせどころとも言えよう。
B 231小節からd-moll、C 278小節からD-dur、再びA 345小節から主題へ戻り、次に長いCodaを経て華やかに躍動感満ちて終結する。
3楽章は全体を通してD部のソロ以外は両パート共に常に音の動きがあるので各々の分担での表現や音のバランスを考慮しながら二台ピアノならではの醍醐味を奏でていくと良いと思う。
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