作品概要
解説 (1)
総説 : 木暮 有紀子
(2712 文字)
更新日:2014年1月20日
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総説 : 木暮 有紀子 (2712 文字)
《眠れる森の美女》、《白鳥の湖》とともにチャイコフスキーの三大バレエ作品に数えられ、このうち最後に作曲されたのが本作の元となったバレエ曲であり、彼の最晩年の作品の一つである。1890年に《眠りの森の美女》で成功を収めた彼に、マリインスキー劇場が新作として《くるみ割り人形》のバレエ音楽を委嘱、1891年から作曲が始まった。委嘱の時期と作曲の開始時期にずれがあるのは、この作品に対する消極的な心情と心身ともに疲弊しきっていたことが要因である。童話の世界を表現することに自信がなく、メック夫人からの金銭的支援も途絶え、海外からの演奏会のオファーで予定が埋まっていた。このような状況の中で彼を励ましたのは、劇場の首席振付師である大御所、マリウス・プティパ(1818~1910)によって提示された詳細なプランに基づく脚本と、チャイコフスキーがまだ扱ったことのない新しい楽器チェレスタとの出会いであった。
バレエ《くるみ割り人形》を作曲中の1892年3月に、チャイコフスキーは急遽ロシア音楽協会から新作を盛り込んだ演奏会の依頼を受けた。ところが、手元に発表できる作品がなかった彼がやむを得ず作曲中のバレエから8曲選び取ったのがこの組曲である。また、この組曲はチャイコフスキー本人によって、ピアノ編曲版が作成された。この作品を演奏するにあたっては、その旋律がオーケストラ版の中ではどの楽器によって演奏されているのかも参照し、音色をイメージしながら演奏することが望ましい。
各曲解説
1. 小序曲 Allegro giusto 変ロ長調 4/4拍子
子どものおとぎ話の幕開けにふさわしく、中音域以上が使用されている。比較的短めの序曲。
曲の冒頭に現れるヴァイオリンの第1主題は、スタッカートや音の跳躍に溢れており、無邪気な子どもが跳ね回る様子を表すようだ。そして、45小節目から始まるのが第2主題である。この二つの主題の繰り返しで曲が構成され、複合二部形式(もしくは展開部を含まないソナタ形式)で書かれている。複数の主題が絶えず交代するその様は、子どものきまぐれな行動や心理を描写しているためだとも言えるだろう。
2. 行進曲 Tempo di marca viva ト長調 4/4拍子
バレエの1幕冒頭のクリスマスツリーの下で、子供たちにプレゼントが渡される場面で使用される楽曲。ファンファーレの後に、跳ね回るような動機を持った子供達の躍動を模倣する旋律が右手で奏でられる。オーケストラ版では、この主題はヴァイオリンによって演奏されている。弱起で始まるメロディーは、プレゼントを待ちきれない子どもの心理を描写しているかのようだ。
3. ドラジェの精の踊り Andante ma non troppo ホ短調 2/4拍子
この曲は、バレエ2幕の終盤に使用されるパ・ドゥ・ドゥ中の第2変奏だが、組曲では3曲目に登場する。お菓子の国の女王ドラジェの精の独舞。日本では〈金平糖の精の踊り〉と訳されているが、本来は果物を砂糖でコーティングしたドラジェというお菓子のことを指している。
この曲の右手部分の主題は、オーケストラ版ではチェレスタによって演奏されていた。チェレスタはいわば鍵盤付きのグロッケン・シュピールでアップライトピアノに似た形をしている。金属板を叩くハンマーがフェルトに巻かれているため、非常に柔らかい音がすることがチェレスタの最大の魅力である。パリを訪れた際、チェレスタを目にしたチャイコフスキーがこの楽器の存在を周囲に口止めするほどその音色に惚れ込み、ロシアの作曲家の誰よりも早くオーケストラの中に取り入れようと意気込んだという記述が、彼の書簡に見られる。左手部分は、オーケストラ版では弦楽器がピッツィカートで演奏している。
4.トレパーク Tempo di Trepak, molto vivace ト長調 2/4拍子
ロシアの踊り。組曲目の4~7曲目は、主人公クララを歓迎するお菓子の国のパーティーの場面で、各国を象徴するお菓子や飲料の妖精が踊るキャラクター・ダンスから構成される。ロシアの踊りは、大麦糖の精(ねじられた飴菓子で素朴な味がする)を象徴する踊りだが、なじみが薄い菓子ということもあり、この呼称よりむしろ〈トレパーク〉という踊りの名前で親しまれている。
トレパークとはロシア(中でもウクライナ地方)の農民による踊りであり、その力強い様子が一貫して描写されている。
5、アラビアの踊り Commodo ト短調 3/8拍子
コーヒーの精を象徴する踊りで、グルジア地方の子守歌に基づく。(コーヒーはアラビア地方原産であり、イスラム教徒の間で体調を整え、気分を高揚させる薬として広まっていた。)
左手に支配的な音型は、太鼓の模倣である。主題が始まるのは14小節目からで、これは本来ヴァイオリンが担当している。オーケストラ版では弦楽器群は弱音器(ミュート)をつけて演奏され、音色に変化が加えられている。チャイコフスキーは、5連音符で表されるメリスマ風のリズム、増音程の使用、低音のオスティナートなど典型的な手法で東洋的イメージを表象しようとしている。
6、中国の踊り Allegro moderato 変ロ長調 4/4拍子
お茶の精を象徴する踊り。飛んだり跳ねたりする妖精たちが踊るコミカルでかわいらしい楽曲。
シンプルな左手の伴奏は、本来ファゴットとコントラバスが担っている。右手の、7連符で一気に駆け上がるような主題はフルートとピッコロによるものである。主題の合間に現れる8分音符の部分はヴァイオリンのピッツィカートである。これらの繰り返しによって楽曲が構成され、非常に単純な書法による。
7、葦笛の踊り Andantino ニ長調 2/4拍子
フランスの踊り。アーモンド菓子の羊飼いが、ミルリトンというおもちゃの笛を吹いて踊る楽曲。この曲は楽器の名前をとって〈葦笛の踊り〉と呼ばれることが多い。
低音弦楽器のピッツィカートの伴奏(ピアノ版では左手)に乗って、3本のフルートが奏でる牧歌的な旋律(ピアノ版では右手)から始まる。中間部では金管楽器が主体となった主題が現れる。
8、花のワルツ ニ長調 3/4拍子
終曲。24人のドラジェの精の侍女たちが踊るワルツ。オーケストラ版では主旋律の間を縫う装飾は後半になるにつれて華やかさを増していく。残念ながら、ピアノ編曲版はオーケストラ版を簡略化しており、これらの装飾はピアノ書法上の都合上、削除されている。しかし、後半部分になるにつれてより和音は充実し、音楽的な広がりが見られ、終曲にふさわしいクライマックスが形成される。
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