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シューベルト : 大ソナタ 変ロ長調 D 617 Op.30

Schubert, Franz : Grand Sonate B-Dur D 617 Op.30

作品概要

楽曲ID:1488
作曲年:1818年 
出版年:1823年
楽器編成:ピアノ合奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:19分00秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (4)

演奏のヒント : 篠崎 みどり (3224 文字)

更新日:2015年5月29日
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シューベルトは1815年からピアノ・ソナタの作曲をスタートする。

ベートーヴェンは10曲のピアノ・ソナタを作曲したのちに交響曲を手掛けた。音の響きや音型の動き、重なりなどを試す意味があったと思われる。シューベルトのソナタにも、当時の多くの作曲家の「ソナタ」と同様アカデミックな面がある。

はじめにD157E-dur、次にD279を作曲したが何れも3楽章メヌエットで終わり4楽章が未完であるために不完全なソナタとされていた。1816年にD459を作り始め、途中で断念したのちに1817年に6曲のソナタを完成させた。

創作の流れの中にD617の4手連弾用ソナタが作曲された。全3楽章から成る。

第一楽章 アレグロ・モデラート  提示部(~68) 属七の華やかな序奏に始まり第1主題(A4~8)が歌曲のように自然な流れで歌われる。続いてエピソード部(B20~)durとmollが交互に変わりながら第2主題(C27~)プリモの下の声部にF-durで登場する。ここの特徴は3連符とスタッカートで奏される。セコンドにも同じリズムの動きが共存している。

ここの符点のリズムと3連符が混在するとき、シューベルトの場合は3つ目の音を合わせることを意味する。

作曲の方法としてシューベルトは旋律を先に作り、あとから伴奏部を付けたと言われている。短い第2主題のあとリズムはそのまま継承してエピソード部(D33~)へ移っていく。

このエピソード部はセコンドのベース音Des音が保続されDes-durへ突如転調されている。セコンドが6度音程の重音での誘い出すような旋律を奏でながらプリモの上声、下声にポリフォニック的な旋律が登場。その後ユニゾンでも奏される。

45小節よりエピソードの2と考えるが急に#系の和音CisEGisが鳴る。この和音を異名同音で考えるとDesFesAsとなる。前の♭調のとの共通和音になるのでエンハーモニック転調である。プリモはソプラノ旋律からアルトの旋律と受け継ぎ交互に呼応する。ソプラノやセコンドベースにトリラーを伴いながら転調とdur mollを交互に繰り返す。

シューベルトの即興性や旋律と伴奏を融合させる手法と言える。転調が多いので演奏の際はしっかり調性を把握してニュアンスを考えるように。音作りも考察のこと。

54小節より小結尾(E)に入る。エピソードBのリズムが時折登場する。

69小節より展開部  小結尾(F)からの続きのリズム、またはエピソード部(B)のリズムが登場。プリモ、セコンドが同じリズムを掛け合うのでよく動きを聴きながらバランスよく弾こう。セコンドの右手に置かれた動きは和音の伴奏として考える。ここの調性は曖昧であるがFisを異名同音でGesに移行して73小節でes-mollと判断できる。次にb-moll f-moll c-mollと転調していく。はっきりした属音から主音への終止での転調ではないが音階の動きが微妙に変化音を伴いながら転調していく。

セコンドの右手は和音連打、そしてffになっているがやかましくならないようにベースの音階の動きやプリモの上声の音階をよく聴き合って呼応していくように。

84小節拍頭で♭調から#調へ転調。和声学的には83小節目As-durの変化音増六の和音と解釈する。このEGisHDは異名同音でFesAsCesEsesとなる。

87小節からのA-durの属和音、属七の和音はEGisHDとなるのでエンハーモニック転調と考える。この87小節から新しい旋律がユニゾンで現れる。ここの音の動きは主和音から増三和音を経てD-durへと思いきや、Aを半音上げてAisを含むh-mollの属和音へと進む。またすぐにAisをBに変換してB-dur.、次に同主調のb-mollへと転調していく(99小節)。

エンハーモニック転調をふんだんに使いながら転調しているので、特にその変わり目の「異名同音の音」を前の調での音と次の調での音の音色や響きのニュアンスをよく考えて鍵盤上での音作りをしよう。

99小節からセコンドベースにF音が保続されて再現部へとすすむ。再現部は殆ど提示部の再現で同様である。

第二楽章 アンダンテ・コン・モート  大変美しい緩徐楽章、弱奏でd-mollで始まる。プリモ、セコンドが一体となってしっとりした美しい響きを持つ旋律と考える。1小節目の2拍裏拍の変化音は増六の和音であるが始まって直ぐにここで緊張感とニュアンスの工夫を感じるであろう。8小節のフレーズはF-durへ転調。前の旋律の動きを受けて次の8小節はF-dur a-moll d-mollへと落ち着く。リピートがあるのでA部は32小節間。

17小節~ここからセコンド伴奏形が変わりベースB音の保続音上に和音を分散した形が続いていく。プリモは二声の旋律でカノンではないが追いかけているかのようである。33小節よりベースがD音に変わり転調の兆候が見えてg-mollの属音でフレーズを終える。

37小節より。ここの旋律はAの旋律と同じ動きで少し変化している。調性はEs-durに始まりGes-dur、同主短調のfis-moll A-dur D-durの属音で半終止的。

69小節d-moll同主調のD-durで再現される。76小節から主題がプリモの下声、つまり左手に移り上声はオブリガートの感じ。

101小節よりCodaで終結。

第三楽章  アレグレット  全体は大きく3つに分かれると思う。

第一部(~73)  曲の始まり方が唐突としているがB-durである。6/8拍子の流暢な第1主題部が16小節間続く。このリズムはシチリアーノと考えられる。次に主題旋律の後半の音型をセコンドベースが受け継ぎ模倣する。そして再び旋律はプリモへと移行されていく。「歌曲の王」シューベルトならではの次々とあふれ出る旋律、そしてプリモからセコンドへの音の動きもハーモニーを支えながら旋律を共存する、呼応するなど自然である。ここのセクションは互いの流れの中でバランスをよく聴きながら奏するように。

30小節からプリモの3小節間の次への橋渡しを経て33小節から第2主題と考えるが、調性はGes-dur Des-dur F-durと転調。遠隔転調ではあるが、F-durのナポリの六を紐解けばBDesGesの和音が浮かび上がりナポリ調での関連性とも言えよう。ここのセクションもプリモとセコンドのリズムが共存している。

54小節からは小結尾前のF-durでの旋律がポリフォニック的に顔をだし62小節で終止。即興的であるが16分音符の軽やかな動きも流れを止めず自然である。シチリアーノのリズムが一貫して続く中での即興性であり統一感も感じられる手法と考える。

第二部(74~111)  前の小結尾に登場した16分音符の音型を引き継ぐ。和音、音階風、アルペジオ風の音型が両声部に登場。シューベルトにしては珍しく旋律が見られない展開部である。調性もシンプルでd-moll B-durのみである。そしてシチリアーノのリズムも見られない。このセクションは決して機械的にならいように古典派とロマン派端境期に位置するシューベルトの音楽を感じながら奏してみよう。

第三部(112~)  第一部の再現である。第1主題に対しての第2主題のCes-durはやはりナポリ調である。  シューベルトの時代の和声はスタンダードなもの、そこへ増六の和音やナポリの六の和音などで最大限に変化を付けたとも感じられる。転調に置いてはシューベルトならではと思われる。古典派に属するハイドンもサプライズと思える突然な転調を用いているし、もっとさかのぼりバロック時代に活躍していたスカルラッティも突然かけ離れた転調を用いている。このようなことから作曲家はそこに留まるだけでなく許容範囲の中であらゆる試みに挑戦して開拓していこうとしていたかの足跡が見える。

執筆者: 篠崎 みどり

総説 : 堀 朋平 (905 文字)

更新日:2018年3月12日
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シューベルトのピアノ舞曲

19世紀初頭は、18世紀に流行した貴族的なメヌエットが、より民衆的でダイナミックなドイツ舞曲やレントラーに座をゆずった後、やがて華やかなワルツに移行しようとしていた時代である。2手用と4手用あわせて約650曲に上るシューベルトのピアノ舞曲も、これら3拍子系の曲種を中心に伝承されている。ヴィーン会議(1814~15年)後に隆盛を見たワルツのリズムをシューベルトも愛したが、残された楽譜を見るかぎり、作曲家が「ワルツ」の名称を使ったのは1回だけであった。この事実からも、各舞曲の性格はそれほどはっきり区別されていなかったと考えてよい。

シューベルトにとってのピアノ舞曲は、まずは内輪の友人たちの集いにBGMを提供し、なごやかな社交の雰囲気を作り出す曲種だった。やがて腕前が世間に知られていくにつれ、公の大きなダンスホールに招かれてピアノを弾く機会も増えていった。その場の雰囲気にあわせて即興で弾いた曲のなかから、特に気に入ったものを後で楽譜に清書していたらしい。そうして書きためられていった舞曲は、歌曲と並んで初期の出版活動の中心をなした。

シューベルトがピアノ舞曲を弾く様子は、友人たちの数ある証言のなかでも最もしばしば、そして生き生きと回想される場面の一つだった。それらの証言が12月~2月に集中しているのは面白い事実である。南方とはいえヴィーンの冬は厳しい。彼らは寒い夕べに皆で集い、心身の暖を取っていたのである。そんなある夜、人生に疲れた親友をシューベルトの即興演奏が癒す様子を描いた詩すら残されている。こうした場面はシューベルトの音楽の原風景をなすものであり、そこで生まれた舞曲は、時に精神のドラマをはらむ緊密なチクルス(まとまった曲集)にまで発展することがあった。この性質をよく認識していたのがロベルト・シューマンである。シューベルトの舞曲チクルスのいくつかは、やがて《ダーヴィド同盟舞曲集》(1837年)につながるほどの緊密な作品集になっているのである。

友情、社交、そして精神の旅路――この3つの領域をゆるやかに横断しつつ、シューベルトのピアノ舞曲は人の心と身体を暖めてくれる。

執筆者: 堀 朋平

成立背景 : 堀 朋平 (446 文字)

更新日:2018年3月12日
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シューベルトが完成させた4手用ソナタはわずか2作であるが、本作はそのうち生前に出版された唯一のものである。自筆譜は消失したが、アントン・シントラーによれば成立は1818年にさかのぼるという。《4つのポロネーズ(D 599)》などと同様、おそらく同年の夏にハンガリーのエステルハージ邸にて二人の令嬢を教えた機会に書かれたとみてよい。出版は1823年、ザウアー&ライデスドルフ社が担った。《大ソナタ》という呼び名は、出版時に(フランス語で)「最初の大ソナタ」と銘打たれたことに由来する。この命名には作曲家自身も関わっていたに違いない。というのもシューベルトは6年後に、このジャンル最後となるハ長調のソナタを書いており(《グランデュオ》D 812)、兄および知人への手紙で、これをも(ドイツ語で)「大ソナタ」と呼んでいるからだ。これらの事実から、シューベルトは1818年頃から4手用ソナタの開拓を志すようになり、この変ロ長調ソナタをその記念すべき第一作に位置づけていた、と考えることができるだろう。

執筆者: 堀 朋平

楽曲分析 : 堀 朋平 (1382 文字)

更新日:2018年3月12日
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音楽の内容も、そんな作曲家の野心を十二分に伝えてくれる。全体を貫く最大の特徴は、5度圏のみならず3度上の調による関係が骨組みを作っている点にある。つまり変ロ長調という主調に対して、ニ長(短)調がその対極をなしている。この調は第1楽章と終楽章の展開部で存在感を示すほか、第2楽章の主調となる。ベートーヴェンの初期ソナタでもすでに明確だったこの傾向を、シューベルトは5度圏の原理と併用しつつ生かすことで、しだいに独自の響きを作り上げていったのである。

第1楽章はロココ風の導入とモーツァルト的な主題を持つ、一見すると優雅な音楽である。シューベルトは1816年6月14日の日記で、モーツァルトが開いた「晴れやかで朗らかな美しき彼方」に熱い讃嘆の言葉を連ねていた。だが曲が進むにつれて「シューベルト的」と呼ぶべき響きがあらわになる。その要因として二つの点が指摘されよう。いずれも後期の器楽にまで通じる重要な工夫である。第一に、目的地の属調に到達したと思いきや(第31小節)、サブメディアント調にあたる変ニ長調でレガートの第2副次主題が流れ出し、特有の抒情性が広がる。この緩急のドラマと関連して第二に注目されるのは、移行部の工夫である。第1移行部(第20小節~)は、曲中で初めての「f」を伴う、勇ましくも安定した変ホ短調によって、優雅な音の流れに最初のメリハリを与える。これは全音階的である。これに対して、抒情的な変ニ長調を経た第2移行部(第45小節~)は、メロディアスかつ半音階的であり、♯系の遠い調をめぐりつつ再び属調に戻る。一般にシューベルトのソナタは形式区分が明快であり、動と静の波もはっきりしている。移行部に基づく動と静の波は、展開部になるとさらに大きな振幅をみせる。第1移行部に基づく展開(第73小節)と第2移行部に基づく展開(第87小節~)の対比がそれだ。両者は、テクスチュアのみならず調的にも正反対の関係にある(変ホ短調/イ長調のトリトヌス)。なお細かいことだが、第62小節(および再現部の平行箇所)で生じる連続5度は、おそらく作曲家のミスだろう。

第2楽章は、感傷的な主題による緩徐楽章。短6度上がって順次下行する動きは17~18世紀に好まれた旋律定型であり、シューベルトも歌曲でこれをよく用いた。たとえば「愛は裏切ったDie Liebe hat gelogen」(D 751)といった痛切な歌詞がつくことが多く、この楽章の基本的な情緒を考えるヒントとなろう。全体は、A(ニ短調)―A’(ニ短調→イ長調)―A’’(ニ長調)の3部分からなる。中間部A’’ に頻出する6連符の表現は、後期ソナタの緩徐楽章(たとえばD 958)に聴かれる濃密な感情の発露をも予告している。

第3楽章冒頭は、第2楽章の調(ニ長調)を使いつつ徐々に主調に戻るという趣向が耳を引く。おそらくハイドンから受け継いだ手法であろう。軽やかに高音域を舞い上がる6連符も、第2楽章の内容を踏まえつつ、それをフィナーレにふさわしく作りかえている。明快なソナタ形式をとるが、冒頭にも記したように、属調のみならずニ短調を軸とする点でも、先行楽章を踏まえている。こうして、全3楽章がさまざまな点で互いに関連しあう構成に仕上がっている点に、本作を「大ソナタ」と呼ぶシューベルトの自信が表れているように思われる。

執筆者: 堀 朋平

楽章等 (3)

第1楽章

総演奏時間:8分00秒 

解説0

楽譜0

編曲0

第2楽章

総演奏時間:5分30秒 

解説0

楽譜0

編曲0

第3楽章

総演奏時間:5分30秒 

動画0

解説0

楽譜0

編曲0

楽譜

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