第8番 ヘ短調 HWV433
本作品では、元々独立作品だったフーガがプレリュードに続き、第3番と同じくプレリュード―フーガという対ができている。
ヘンデルが出版用に新しく書いたプレリュードでは、冒頭から4声が互いに様々な動機を短い間隔で交替していく。11小節目からは既出の動機のうちの1つの連続となり、低音の半音進行にのって転調する。フェルマータを経て、半終止から直接にフーガが準備される。フーガの主題は3声目まで主題が連続で呈示された後、低音域の和音で重々しく現れる。この和音での主題提示は楽章内で、後にも何度か現れる。ストレッタや楽章中に繰返し現れる主題冒頭3小節の特徴的なリズムにも注目したい。
第8番は同じくプレリュードと3つの組曲楽章から成る第1番と対を成すが、各楽章の性質は対照的である。フランス的要素の強い第1番に対して、第8番のアルマンドは一様なリズムの簡素な2声体書法が支配的で、イタリア様式の特徴を呈している。同じくクーラントも、華美な装飾と様々なリズムの変化を含む第1番とは対照的な簡潔なものである。各部冒頭の上下声部の模倣はこの組曲集でも何度も使われた方法である。
ロジェ版の改訂稿であるジグは第1番と同じく模倣で始まり、概ね2声体で書かれている。前半部を閉じる属調のピカルディー終止を属和音として、後半部は主調のDT進行から始まる。転調はシンプルで、下属調、平行調を通って主調へ戻る。その後、平行長調を挟みながら、前半部の楽節が繰返されていく。