1720年に作曲家自身によって編纂,出版された第1集とは異なり、第2集Suite de Pieces Pour le CLAVECIN. COMPOSES par G. F. Handel. SECOND VOLUMEの第1版は、1730年、作曲家の承認なしに、ロンドンの出版社ウォルシュが第1集を模して出版した。恐らくウォルシュは、ヘンデルが第1集の序文において、曲集が好評の場合、続刊する旨を示したのに便乗したのだと推測されている。
収録作品の大半は既刊作品であり、ヘンデルの初期作品が多い。HWV434、437-440はロジェ版、またはそのための浄書譜に基づいて、ウォルシュがプレートを作成したとされる。曲集の第2版は第1版に続いて1730年の終りから31年初頭に出版されたという。
その後ウォルシュの息子(Walsh junior)が出版社の経営を継ぐが、息子の方は父とは対照的に、ヘンデル個人と良好な関係を築くことができた。その結果、第2版は作曲家の承諾を要することとなり、曲集収録曲の順序を変えて(但しプレートは誤りを含んだままで)ウォルシュ息子によって新版が出版された。収録曲の順序は、作曲家自身の提案に添ったのではないか、という憶測が出されているものの、詳細は現在もまだ不明のままである。
なおウォルシュ息子による新版の出版年は長年1733年頃とされてきたが、実際のところ正確な年代は未だに特定されていない。
HWV436 d-moll
伝統的な舞曲楽章から成る組曲。第2楽章のアレグロは事実上イタリア風コッレンテであり、第3楽章のエールはサラバンドと位置付けられる。第4楽章のメヌエットは3つの変奏を伴うが、これは終楽章に変奏曲を置くという古い伝統に従っている。この組曲は、ハンブルク又はハノーファー時代の作品を、ヘンデルが1722~26年頃に改訂した稿で、メヌエットは改訂の際に組曲に加えられたとされる。アルマンドとジグの動機素材は組曲HWV449に由来する。
アルマンドの前半では、主調から平行調を通って最後に属調へ終止する。平行調部分は繋留による下行音形や1拍単位の動機のゼクエンツといった、転調前とは異なる構成上の新しさが直前との対比を生んでいる。後半は主調で始まり、下属調を経て主調に戻る。第20小節からは楽章冒頭における半小節の下行動機が連続的に現れ、第23小節以降はほぼ完全に第10小節以降と対応する。
アレグロは4小節単位のまとまりで終始した、形式的な区切りが明確な楽章である。全体に渡って右手が旋律声部を支配し、左手が8分音符の刻みでそれを支える。
エールは ||: a :||: b a’ :|| の3部分リート形式。中間部では、旋律線が上行下行を交替する間隔が短くなり、調性と並んで旋律構造においてもa部と対照的である。楽章末の終止の旋律形は、ヘンデルがハレ時代から1707年末まで用いたとされ、オペラ《アルミーラ》で特に使用頻度が多い、「アルミーラ終止」と呼ばれる終止音型である。
ジグ冒頭は、第1集でもよく見られた両手の部分的な模倣で始まる。反復前に平行調への転調を準備する属音の保続音は、中間部では属調への転調を強調する鍵となり、楽章末では主調回帰を確定して音楽を反復前の最後の4小節に繋げる役割を果たしている。
メヌエットの第1変奏では主題の旋律の輪郭がほぼ一様なリズムの右手によって辿られている。第2変奏では8分音符のリズムが左手に移り、その上で右手が主題旋律を変奏する。但し記譜上の主題旋律形は原型と同じところも多く、実際の演奏では任意に装飾が施されたのではないかと推測される。第3変奏は両手の3度の平行が中心となる。なお3度の和音進行から単旋律への響きの転換は、主題の構成と対応している。