close
ホーム > バッハ > トッカータ ニ長調

バッハ : トッカータ ニ長調 BWV 912

Bach, Johann Sebastian : Toccata D-Dur BWV 912

作品概要

楽曲ID:401
作曲年:1707年 
出版年:1843年
初出版社:Peters
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:トッカータ
総演奏時間:12分30秒
著作権:パブリック・ドメイン

解説 (2)

執筆者 : 朝山 奈津子 (770 文字)

更新日:2007年7月1日
[開く]

音階の走句による導入、アレグロ、アダージョに続くフーガおよびトッカータ風のコーダ、そしてジーグ風のリズムによるフーガとコーダから成る。複縦線に従うなら4部分だが、書法の上ではより多様なものが並置されている。

アレグロ部分はロンドのように冒頭の主題が回帰する。その間では、右手と左手はそれぞれのパッセージをまるでキャッチボールのように交換する。

アダージョでは、アレグロの明るさが徐々に翳り、急激な下行音階で朗唱が分断され、様々な調を経て短調のフーガを目指す。なお、ここに見られる両手のトレモロは、バッハが初期においてのみ用いた音型で、後年に改訂の機会があればこれを削除した。従って、この作品は作曲も改訂もかなり早い時代に行われたとみられる。

最初のフーガは半音階主題で、2つの対主題をもつ。これら3つが様々な声部に現れ、転回対位法が厳格に実施される。やがて、アダージョで鋭く介入した音階の走句が再び登場して、調の遍歴が始まるが、次第に明るさを増し、一六分の六拍子による軽快なフーガにたどり着く。

このセクションは、三度音程を行きつ戻りつする主題とギャロップする対主題を持つが、対位法よりもむしろ和声の変化によって形成されている。トニカとドミナントの五度関係よりも同主短調関係や三度の関係で進む和声は、きわめて斬新に響く。巧みな転調と絶え間なく続く一六分音符に隠されているが、調は嬰ト短調にまで到達する。

コーダでは三和音が倍速の分散和音にほどけてゆき、速度を増して一気に鍵盤を駆け下りるが、理性的なカデンツで再び上行して終止する。

なお、アダージョ部に見られる両手のトレモロは、バッハが初期においてのみ用いた音型である。後年のバッハはトレモロを好まず、改訂の機会があれば削除していった。従って、この作品は作曲も改訂もかなり早い時代に行われたとみられる。

執筆者: 朝山 奈津子

演奏のヒント : 大井 和郎 (2842 文字)

更新日:2023年5月15日
[開く]

1~10小節間

自由に即興的に弾ける部分ですが、D-durから始まるものの、8小節目では借用和音が出てきます V7/V 。そしてそのままA-durで終わるというなんとも不思議なカデンツです。ダイナミック的には冒頭1小節目は、p で始まり、徐々にクレシェンドをかけて8小節目に行きつく感じで良いと思います。スピードもここで一度止まり、緩やかなテンポで8~10小節間を弾いて下さい。

8小節目、2拍目から一度音量を下げ、9小節目から徐々に音量を上げて、最後10小節目はフォルテで終わって下さい。

11~67小節間

同じような主題が入り乱れているように見えますが、きちんと整理をすると曲の構造がわかり、演奏の助けになります。まず、11小節目4拍目から12小節目3拍目までを1つの「素材」とします。右手の主題を覚えておいて下さい。これを 素材A とします。

この素材Aは、17小節目3拍目まで続きます。後からも素材Aは出てきますが一度ここで切りが良い場所とします。この11~17小節間は、2つに分けることができ、1つ目は12小節目(厳密には11小節目4拍目)から、14小節目の3拍目まで。そこから17小節目3拍目までが2つめです。1つ目と2つ目の違いは、右左が入れ替わっていることのみです。1つめは、4つに分けることができ、素材Aは調性を変えて4つ入ってきますが、これは転調をしたわけではなく、ハーモニックシークエンスと呼ばれるパターンです。強引に調を割り当てるのであれば、A-dur D-dur A-dur D-durと続きます。

そして2つ目は左右が入れ替わるのですが、伴奏の音数に注目して下さい。1つ目よりも音が多くなっていますね。これは音量的にはこの2つ目の方が大きいという理解で良いです。これも強引に調を割り当てると、h-moll A-dur G-dur と順次進行で下行していますね。もしかしたらディミヌエンドが良いのかもしれません。

17小節目4拍目より出てくる素材を、素材B とします。左右どちらを覚えて頂いてもかまいません。この素材Bは、23小節目3拍目まで続きます。後からも素材Bは出てきますが一度ここで切りが良い場所とします。この6小節間、再びハーモニックシークエンスを繰り返し、全部で6つの素材Bがありますね。左右入れ替わったり、fis-mollの素材Bもありますね。

23小節目4拍目から、32小節目3拍目までは、素材Aと素材Bが合体します。素材AとBが合体したものを素材ABとします。この素材ABは、32小節目3拍目までに4つの素材が登場します(厳密には最後の4つ目だけ少し長く続きます)。

32小節目4拍目から38小節目3拍目まで新たな素材が出てきます。これを素材Cとします。この素材Cのセクションは大きく分けて2つに分かれ、これは単純に、左右が入れ替わったパターンになります。

38小節目4拍目から42小節目3拍目まで4つの素材Aが登場します。今度は1回毎に左右が入れ替わります(忙しさを思わせますね、テンションが高くなっていると理解します)。

42小節目4拍目から46小節目3拍目まで素材Cが登場します。45小節目などは、右手のラインが変形していますが、左手16分音符4つのパターンの、最後3つは、Fis-Eis-Fisと書かれており、短2度下がって短2度上がるパターンですので、これも素材Cとしました。

46小節目4拍目からは16分音符がアルペジオになる、素材Bが登場します。これは48小節目の3拍目まで続き、そしてここから16分音符のパターンは、アルペジオのパターンと、素材Cのパターンが入り乱れます。51小節目は左右ともに16分音符となりますが、これは素材Cの変形と考えてください。

53小節目3拍目より最後の素材Aになります。56小節目1拍目まで続きます。

56小節目2拍目からは、素材Cが来て、再び16分音符が左右に同時に出てきます。これは63小節目3拍目まで続きます。

63小節目4拍目からは今までに出てこなかった素材で、CODAと見なします。67小節目が最後の小節になります。

奏者はこれらの分析を元に、強弱や音質、方向性等を決定してください。

68~126小節間

この小節間は3つの部分に分けることが出来ます。

1 68~80小節間

この部分は即興性が必要になります。68~70の3小節間、シークエンスが続きます。1つ1つの表情を変えるように弾きます。71~73小節間6つのシークエンスがあります。ここでも全てが同じにならないようにします。以下同様、即興的に音量を調節しながら進みます。

2 80~111小節間

フーガです。主題は80小節目1拍目裏拍よりテノールの声部で、81小節目3拍目までとします。

副主題は80小節目3拍目裏拍よりソプラノ声部で81小節目3拍目のFisまでとします。奏者はこの80~111小節間でピークポイントになる箇所を把握し、そこに向かいますが、その間、主題と副主題は調性や声部を変えて、シークエンスに挟まれながら進みます。各主題と副主題の音量や音質を異ならせて進んで下さい。これは筆者の個人的な見解になりますが、106小節目109小節目あたりがピークポイントになる部分と思います。このフーガの部分に関しては、その前後にある、68~80小節間と111~126小節間に比べれば、淡々と進んでいきますが、ある程度はロマンティックな奏法を取り入れて良いと思います。完全にメトロノームのようにはならない方が良いです。

3 111~126小節間

再び即興性の必要になる部分に入ります。68~80小節間と同様の注意事項となります。

127~277小節間

明るく楽しいセクションです。音数は、終わりに向かうに従って多くなりますので、最初はpから弾き始めた方が良いでしょう。仮に主題が、131~134小節間までとします。これが多くのパターンのシークエンスに挟まれながら調性を変えて先に進みます。一応調性を書いておきます。

131~134小節間 A-dur

139~142小節間 D-dur

150~153小節間 D-dur

154~157小節間 e-moll

158~160小節間 G-dur

164~167小節間 A-dur

168~171小節間 h-moll

176~179小節間 h-moll

180~183小節間 D-dur

197~200小節間 A-dur

201~204小節間 e-moll

205~208小節間 G-dur

209~212小節間 h-moll (変形)

216~219小節間 fis-moll

253~256小節間 h-moll

257~260小節間 D-dur

264~277小節間 CODA

これらの主題も、終わりに行くに従い音数が増えてきます。つまりは音量が上がります。感傷的な部分以外は、淡々と進み、徐々に曲を盛り上げ、最後のCODAを迎えるまでテンションを下げないようにして下さい。

執筆者: 大井 和郎

参考動画&オーディション入選(2件)

林川崇さんのお勧め, ノヴァエス, ギオマール
トッカータ ニ長調 BWV 912(第10回福田靖子賞)