HWV440 B-dur
アルマンドの第11、13小節に、オペラ《アルミーラ》に特徴的な終止形が見られること、サラバンドの初期稿が作曲家の初期のサラバンドに特徴的な3/2拍子であることから、初期稿の成立はハンブルク時代とされる。諸史料の中にはアルマンドとサラバンドの改訂稿をHWV434の一部とするものがある。サラバンドが改訂稿の3/4拍子で書かれた史料は1717年以降のものであるため、批判校訂版では両楽章が1717年頃に改訂され、写譜師がそれらを同時期に作曲されたHWV434の一部としたと推察されている。
アルマンドは2声体を基本とする2部形式である。前半のバスのリズムは、改訂稿でより統一的になっている。後半は、規則的なゼクエンツなどに依らない自由な声部進行によって、属調から近親調を経て主調が回帰する。第11-12小節のフレーズが再現したのち、3声による音階下行とゼクエンツの反復で楽章が閉じられる。
クーラントは第1小節の右手の8分音符3音の動機、音階下行、分散和音による音階上行を主要素材とする。音楽の切れ目が概ね2小節単位で明確に区切れる解りやすい構造をとる。素材の活用法では同一素材の転義を指摘できる。前後半の冒頭楽節は付点2分音符と8分音符3音の動機で始まるが、以後、同じ1小節のリズム動機が現れる中で、強拍の付点2分音符は前の楽節を閉じる解決音にもなる(例えば第22、28小節)。
サラバンドの拍子の改訂は、作曲家が自らの初期の様式的特徴を捨て去ったためと考えられている。本楽章に記譜された多くの技巧的な装飾音は、その他の類似の組曲楽章のための装飾見本と解釈されている。反復記号後はト短調に転調し、前半と長短の対比を成す。第12小節以降は、属七和音の連続と導音の安定した解決が先延ばしされることで、特に和声的緊張が高まる。
ジグは軽快な付点のリズムが特徴的である。前半では5小節の楽節が、挿入を挟みながら3声に模倣されていく。後半も1小節間隔の3声の模倣で始まるが、厳格な模倣は前半ほど長くはない。第44小節からは、第19小節からの旋律声部が回帰する。