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ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ 第3番 Op.2-3 ハ長調

Beethoven, Ludwig van:Sonate für Klavier Nr.3 C-Dur Op.2-3

作品概要

作曲年:1793年 
出版年:1796年 
初出版社:Artaria
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:ソナタ
総演奏時間:26分30秒

解説 (1)

執筆者 : 岡田 安樹浩 (2391文字)

更新日:2009年1月1日
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草稿、自筆譜ともに失われているため成立年代の特定は難しいが、おそらくop.2-1および2-2を完成させたのちにヴィーンで完成したと思われる。op.2の3曲は共に師であるハイドンに献呈されているが、この第3番は前2作と比べると、少々間に合わせの感が否めない。しかし中間楽章の調性の選択や、ぎこちないながらも動機操作にこだわったソナタ形式楽章の内容は、後の我々のよく知るベートーヴェンを十分に予感させる。また、第1楽章後半のリピートは省略されている。

(第1楽章)ハ長調 4分の4拍子 ソナタ形式

[提示部]

3度の重音によるトリル風の音型をもつ主要主題で開始される。主題の後半ではスフォルツァンド(sf)記号によって第2拍目にアクセントが移される。バス声部で主題の確保、分散和音による推移を経て、副次主題がまずト短調であらわれる。続いてト長調でもう1つの副次主題が提示される(注)。この2つの副次主題は、ボン時代に作曲した《ピアノ三重奏曲》WoO.36-3からの転用である。

推移部の楽想や主要主題のトリル風の動機の発展、オクターヴ奏でのシンコペーション動機を経て属調でコデッタは終止する。

[展開部+再現部]

まずトリル風の動機が反復され、次に分散和音の音型が繰り返されてニ長調へ転調する。この分散和音はおそらく推移部の動機を発展させているのであろうが、あまりうまい関連づけとはいえない。主要主題とスフォルツァンドによるシンコペーション動機を組み合わされて展開する。

属和音上にトリル風の動機が繰り返されて再現部を導く。確保に当たる部分は変形されており(第147小節~)、コデッタにおけるシンコペーション動機とスフォルツァンド記号によるシンコペーションの強調は全て提示部における素材に由来しているが、なんともぎこちない。副次主題はともにハ短調/長調で再現されるが、コーダは拡大されている。

[コーダ]

まず変イ長調(同主短調のVI度調)へ、ドミナント和音から偽終止進行で転調すると、これまでの動機とは関連の無い分散和音が繰り返され、ハ長調のドミナント(I度の第2転回形)へ回帰するが、これもカデンツァ風の楽句によって引き伸ばされる。この和音上にこうした楽句が挿入されるのは、再現部の直前やコーダの直前に習慣的に演奏されるカデンツァ、またはアインガングを実際に記譜したものとも考えられよう。

後年ベートーヴェンが自作の協奏曲のカデンツァを全て書き残したことを考えれば、この楽句はこうした文脈でとらえるのが妥当であろう。

このカデンツァ風楽句の後に主要主題がもう1度あらわれ、提示部のコーダと同様に楽章をしめくくっている。

(第2楽章)ホ長調 4分の2拍子

主要楽章のハ長調に対し、アダージョの第2楽章がホ長調で書かれていることは、3度関係で調性を構築する後年のベートーヴェンの様式を先取している。2つのセクションが交互にあわられる5部分形式。形式を図式化すれば[A-B-A-B-A]。

第1部は付点リズムに特徴づけられる動機と和声的な書法による動機からなる主題による。第2部はホ短調で、分散和音を背景として上声部と下声部に楽想が展開される。冒頭の主題が回帰する第3部を挟んで、第4部は第2部の楽想が短縮されてあらわれる。再び冒頭主題が回帰する第5部では、主題が若干発展しながら収束する。

(第3楽章)ハ長調 4分の3拍子 スケルツォ

前作op.2-2と同様、メヌエットにかわってスケルツォが用いられている。1拍半のアウフタクトをもつ動機が主部を支配しており、1小節を3拍を刻む動機と組み合わせられることでリズムの対比がなされている。リズム上の仕組みは、次の八分の六拍子のフィナーレを予感させているのかもしれない。

トリオは分散和音の音型の中に、第3拍目を強調するパターンが組み入れられている。ダ・カーポ後のコーダでは半音が強調されたパッセージが繰り返される。こうした音楽作りは優雅なメヌエットでは成し得ず、ベートーヴェンがメヌエットにかわってスケルツォを導入したのは、彼の音楽的な要求からの必然であったのかもしれない。

(第4楽章)ハ長調 8分の6拍子 ロンド・ソナタ形式

ロンド・ソナタ形式のフィナーレは、急速に上昇する6の和音による主要主題によって開始され、続いて3度順次下降する和声の上に装飾的なパッセージが置かれる。

属調(ト長調)で特徴的なリズムによる分散和音の副次主題提示、主調での主要主題回帰の後に下属調(ヘ長調)で新たな主題が提示される。

この新主題は和音の転回と順次下降する和音によっており、主要主題の反行形と考えられる。これがバス声部などに置かれて展開された後、主要主題、副次主題の再現部を経てコーダに到達する。

コーダは拡大され、長いトリルをともなって主要主題がもう1度展開され、この動機を幾度も反復して楽曲をしめくくる。

第3番のソナタは、動機の関連づけへの傾倒とコーダの拡大など独創的な側面を追及しながらも、ボン時代の作品の主題の転用などもあり、「間に合わせ」のような印象も受けるが、こうした若書きの中にみられる独創的な部分は、どれも後年のベートーヴェンに固有な特徴につながっていることは興味深い。

(注)このような副次主題を複数もつソナタ形式楽章は、モーツァルトにもハイドンにもみられる。研究者によっては、ソナタ形式を論じる際に用いる「第1主題」と「第2主題」という言葉にまどわされて、「どちらが真の第2主題か」などという議論を繰り広げる者もいるが、こうした考え方は19世紀後半になって楽式論上でソナタ形式を簡潔に説明するために生み出されたものである。よって、ベートーヴェンのソナタ形式の主題が2つしか存在できない理由など無く、ここでの同一主音上の長短調による主題は両方ともに「主題」であるといってよい。

執筆者: 岡田 安樹浩

楽章等 (4)

第1楽章

総演奏時間:10分00秒 

第2楽章

総演奏時間:8分00秒 

第3楽章

総演奏時間:3分00秒 

第4楽章

総演奏時間:5分30秒 

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