20世紀初頭のモスクワで作曲された。この作品を作曲する前年まで、スクリャービンはモスクワ音楽院のピアノの教授を務めていた。スクリャービン独自の和声の語法を確立し始める過渡期にある作品となっている。
第1曲目は、スクリャービンに特有のポリ・リズムの練習曲。9対5と割り切れないリズムの構成になっている。メロディーはアルペジオの中に織り込まれている。このようなメロディーに対するリズムの優位というのは、スクリャービンの後期の作品の特徴の1つである。
第2曲目は、5連音符の練習曲で、3対5のポリ・リズムとなっている。また、5連音符は、メロディーよりも8分音符1つ分先行して弾き始めるため、クロス・フレーズもなす。僅か31小節の短い曲であるが、終わり近くの2小節分の全休符が絶妙な効果を発揮している。
第3曲目は、8分の6拍子を刻む8分音符の1つ1つの音に対し、16分音符の3連音符をあてがった練習曲。プレスティッシモというテンポの指示がなされ、また、僅か34小節と短い曲である。急速な半音のトリルには、非和声音の大胆な使用が見られ、強烈な印象を残す一吹きの風を思わせるつくりとなっている。<蚊>の俗称は、この響きに由来する。
第4曲目は、3連音符を多用する練習曲。冒頭に「カンタービレ」と指示されており、甘美な響きを生み出している。
第5曲目は、スクリャービンの練習曲の中では規模が大きく、演奏される機会の多い曲である。幅広い音域を扱う左手や、右手の内声に埋もれてしまわないように、メロディーをたっぷりと歌いあげることが求められる。
第6曲目は、3連音符と5連音符により3対5のポリ・リズムを築く練習曲。メロディーは、表情豊かなラインを描いている。非常に広い音域を弱音で駆け巡る部分では、高い表現力が求められる。
第7曲目は、8分音符の3連音符と16分音符により4対3ポリ・リズムを築く練習曲。右手の3連音符には重音も含まれている。前曲と同様に、5連音符が3連音符と対置される部分もみられる。そして、これまた前曲と同様に、弱音で演奏する困難さを克服すべき部分がみられる。
第8曲目は、3連音符と5連音符により3対5のポリ・リズムを築く練習曲。このポリ・リズムは、拍子に対して8分音符1つ分前倒しになっており、クロス・フレーズともなっている。また、半音階的な音の動きを特徴とするコラール風の中間部を持つ。