作品概要
解説 (2)
解説 : 今関 汐里
(503 文字)
更新日:2018年4月13日
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解説 : 今関 汐里 (503 文字)
1914 年 1 月から 1917 年に渡英するまでの 3 年間、山田耕筰は日本で洋楽のパイオニアとして精力的に活動し、管弦楽団の創設や、「ヤマダ・アーベント」を開催してピアノ作品を自作自演した。私生活においては、1915 年に永井郁子と結婚する(入籍はせず)もその後破局し、 1916 年 11 月に、幼馴染の村上菊尾(河合磯代)と結婚した。翌年の 4 月には長女の美沙が誕生するなど充実した日々を送っていた。
1916 年 12 月作曲の《迎春》は当初、《プチ・ ポエム「日記の一頁」》の第 10 曲として構想された。しかし、作曲者によって「No. 10」の 文字が削除され、新たに現在の第 10 曲〈除夜〉 が作曲された。作曲者自身による初演の記録は残っていないが、《迎春》は、ボストンのオリバー・ディットソン社刊行の自選ピアノ曲集『音 の流れ』に収録されている。楽曲全体は 24 小節と非常に短い。楽曲冒頭は、拍子の著しい変化、断片的なモチーフの登場、重音の頻出などの要素が目立つが、9 小節目以降に現れる右手の旋律は日本古来の 5 音音階で書かれており、 非常に旋律的で楽曲に抑揚が付けられている。
解説 : 杉浦 菜々子
(447 文字)
更新日:2024年2月8日
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解説 : 杉浦 菜々子 (447 文字)
24小節の短い曲ながら、山田特有の語法が非常に多く盛り込まれた作品です。この曲に限ってのことではありませんが、小節線上のフェルマータや休符をどのように解釈するかによって、様々な表現の可能性が広がります。例えば、10小節目終わりのフェルマータは、10小節の16分音符で描かれた歩みを突然やめてふり返るようなような、動作をイメージすることもできると思います。また、13小節目の左右に書かれた2部休符は、やはり12小節の16分音符の歩みが止まるとともに、次の3拍目から待ち受ける唐突な結末を準備する呼吸が含まれるでしょう。9 小節目以降に現れる右手の旋律は、《源氏楽帖》の「花宴の巻」の中間部からの旋律に似ており、長閑で優雅な日本音階の旋律をのびのびと歌う喜びがあるかと思います。また、15小節からの3度の半音階は、《源氏楽帖》の「末摘花の巻」にも登場し、コミカルさを醸し出しています。細かに付けられた松葉のクレッシェンドとディクレッシェンドを用い、スケルツァンドの雰囲気で演奏されると良いでしょう。