ホーム > 武満 徹 > 二つのレント

武満 徹 :二つのレント

Takemitsu, Toru:Lento in Due Movimenti

作品概要

作曲年:1950年 
楽器編成:ピアノ独奏曲 
ジャンル:曲集・小品集
総演奏時間:11分40秒

解説 (1)

解説 : 仲辻 真帆 (1289文字)

更新日:2019年12月29日
[開く]

山根銀二が「音楽以前である」と酷評したことで知られる《二つのレント》。発表当時、この作品に対する批評は様々であった。原太郎は「この感覚(そもそもレントが二つおしならんでいることも含めて)は今日のものではない」「普遍性のない仕事」「そもそも芸術的境地であり得ない」と評した。一方で、秋山邦晴や湯浅譲二は「とてもよかった。感動した。」と発言している。そして吉田秀和は、《二つのレント》発表から16年後に発売されたレコード『武満徹の音楽』(Victor, 1966)の解説において、「あの時に演奏されたほかの曲は、ほとんどみんな忘れてしまったのに、あの曲のことだけは、未だに覚えている」と述べ、《二つのレント》について、「音の優しさと、孤独への指向とが、今まで、どんな音楽でも経験したことのないような具合に、とけあったり、矛盾し対立しあったりしていた」、「孤独狷介で人を寄せつけない厳しさ」をもった音楽、「ひたすら内部へ内部へと沈潜する」音楽だと評した。

こうした毀誉褒貶を呼んだ《二つのレント》は、武満徹が20歳のときに作曲したピアノ曲である。早坂文雄のすすめにより、1950(昭和25)年12月7日、「新作曲派協会」の第7回作品発表会で演奏された。

《二つのレント》。まず、この作品名に違和感を覚える人がいるかもしれない。しかし、武満が想定していた「レント」は、単なる演奏速度を示す符号ではなかった。もちろん、メトロノームで刻むようなテンポとは異なる。レントという用語がもつ、ある特有の時間感覚。ドビュッシーが書いた《レントより遅く》を意識しつつ、武満は、ゆったりとした音楽で沢山の響きを紡ぎだそうとしたのである。

《二つのレント》から立ち昇る響きは、独特の色彩を帯びている。この作品をつくっていた頃、武満はペンタトニック(五音音階)の研究をしていた。《二つのレント》は、ペンタトニックからペンタトニックへ移ろいゆくなかで生まれる、豊かな音の重なりに満ちている。掛留音、経過音などが巧みに用いられ、不協和音さえも妙味へと変換される。第1曲の〈アダージョ〉を作曲後、武満はメシアンの音楽を知る。その影響下でつくられた第2曲の〈レント・ミステリオサメンテ〉は、いっそう魅惑的で力強い作品となった。〈アダージョ〉から〈レント・ミステリオサメンテ〉の終盤にかけて、序破急のごとく、より速く軽快に高音へと駆け上がってゆく。

この《二つのレント》は、実質的な武満徹のデビュー作品である。1950年の初演と1955年のNHKラジオ「現代の音楽」では、藤田晴子のピアノにより演奏された。その後、楽譜は行方不明となるが、友人の福島和夫が所持していたスケッチをもとに、「記憶の糸をたぐりよせながら、新しい粉飾を加えずに」、1989年、武満は《二つのレント》を再構成して《リタニ》というピアノ曲を仕上げている。

【主要参考文献】

・武満徹ほか著『武満徹著作集』5、新潮社、2000年

・立花隆著『武満徹・音楽創造への旅』文藝春秋、2016年

・楢崎洋子著『武満徹』(「作曲家 人と作品」シリーズ)音楽之友社、2005年

執筆者: 仲辻 真帆

楽譜 (0件)